最新記事
金融

融資審査に「心理統計テスト」活用、AIアルゴリズムでマイクロファイナンスの新たな地平へ

2023年11月24日(金)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載

tokyoupdates231124_1.jpg

稲田氏(中央)とスタッフたち(マレーシアで)

ビー・インフォマティカが打開しようとしている課題のひとつは、新興国では多くの人がクレジットスコア(個人や法人の信用力を評価するための数値)を持っていないということだ。「その点が日本のような先進国とは異なります。日本ではほとんどの人がクレジットスコアを持っている。学生を含めて、たいていの人がクレジットカードを所有しているからです」

小規模事業者や、1人で経営しているような零細起業家を対象に、同社は1万リンギット(約2,150ドル)から融資を行う。クレジットスコアを持たない人がいるという点については、地元のスタートアップ企業が開発した心理統計テストが解決策となった。このテストでは、48の質問によって性格と行動面の3つの分野を分析する。起業家精神、金融リテラシー、そしてコンプライアンス(金融ルールを守ろうとする意識)だ。それらをもとに、貸した資金が返済される可能性を割り出す。

1万件のデータ収集を目指す

アルゴリズムに新しいデータを投入すれば、予測精度は向上する。しかしマレーシアで行った融資は100件に満たず、現実の事例は多くはない。より多くのデータを収集するためもあって、それまでマレーシアを拠点としていたビー・インフォマティカは2020年、東京本社を設立した。

オリックス銀行など日本の金融機関と協力し、今後さらに数千件のデータを取得する。「最低でも5,000件を目標としていますが、統計的に信頼できるレベルとしては1万件が理想です」と、稲田氏は言う。

アルゴリズムが軌道に乗れば、それを金融機関に、さらには他分野に提供することで商業化を目指す。同社が検討している事案のひとつは、賃貸物件の入居者の信用度を評価するアルゴリズムをつくることだ。

多くのスタートアップと同じく、現時点ではビー・インフォマティカは最低限の収入しか得ていない。補助金や投資家の支援を得ながら、収益化する体制づくりを目指している。そのような状況での、東京金融賞の受賞はうれしいニュースだった。

「300万円という賞金は小さなものではありません。本当に感謝しています。授賞式ではさまざまな方たちと出会うことができましたし、とても有意義な場でした」と稲田氏は語る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ

ワールド

再送-日鉄副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中