読書で「自己肯定感」が高まる...ストレス軽減の「癒し効果」、長生きにもつながる読書の効能とは?
「人間的なやりとり」を取り戻したい
──本書を発刊されたときから、読書について新たな動きはありますか?
本によって癒やされた経験が「読書セラピー」の一種だという認識が広がっていったように思います。特に「読書で癒やされた経験を共有する場が大切だと気づけた」という声も寄せられました。
本の内容理解や勉強を目的として、学びを共有する機会はよくあります。それに対し、本を通じて自身を癒やし、その思いをわかち合う場があってもいいんだ、というのが、多くの方にとって発見だったそうです。自分にとって切実なテーマであればあるほど、他者に気軽に共有できないもの。ですが、本を媒介にすれば、自分の思いを話しやすいという声もあります。
最近の読書全般の動きとして、社内で図書館をつくる動きや、個人の蔵書を持ち寄って「まちライブラリー(図書館)」をつくる動きが広がっています。後者は、個々人の独自の書棚ができ、本をきっかけに対話やお茶会が生まれています。
こうした動きが活発になっている背景に何があるのか。世の中で資本主義化が進み、効率化の波にのまれて、どこか心が渇いていく部分があるのではと思います。人間的なやりとりが失われていることへの反動というのでしょうか。本を媒介にして、深いつながりを取り戻したいという思いがあるのだと思います。
倍速視聴は、「感情を揺り動かされたくない」から
──いまはタイパ(タイムパフォーマンス)の時代といわれ、効率化が重視されています。ビジネスパーソンの読書にも何か影響があるのでしょうか。
実は、以前は映画や読書などでタイパを追求することに疑問を抱いていました。映画を倍速で視聴したら、登場人物の心の機微をつかめなないし、作品をちゃんと味わえないのではないかと。ですが、『映画を早送りで観る人たち』を読んで、驚く発見がありました。
倍速視聴や10秒飛ばしをするのは、単に効率化を求めているだけではない。映画1本1本に感情を揺り動かされて、疲れるのを避けたいというのです。これは映画だけでなく本など他のコンテンツも同じ。「ちゃんと味わわない」ことで、感情の消費量を節約している。「大量のコンテンツを消化しないといけない」というプレッシャーに、それほどまでに追い込まれ、疲れてしまっている姿が浮かび上がってきました。