今、ジャニーズを切るより企業がすべきこと...必要なのは懲罰ではなく「影響力の行使」
How Businesses Can Seek Justice
東山紀之(左)と藤島ジュリー景子 REUTERS/Kim Kyung-Hoon/File Photo
<性加害を受け契約を解除する広告主が相次ぐが、安易なリスク回避はかえって問題の温存につながる。また広告代理店やメディアにも講じるべき具体的な再発防止策がある>
日本のエンターテインメント業界に長年、影響を与えてきたジャニーズ事務所が揺れている。8月末、外部専門家による再発防止特別チームの調査が創業者、故ジャニー喜多川の長年にわたる少年たちへの性加害を認めた。9月7日にはそれを受け喜多川の姪、藤島ジュリー景子が社長の座を退き、所属タレント最年長の東山紀之が後を継ぐ人事を発表した。
7日の東山らによる4時間超にわたった記者会見は、少なくとも過去にはないレベルで事務所が問題に向き合ったものだったことはひとまず認めなければいけない。疑惑の段階からジャニー喜多川の性加害問題を報じ続けた週刊文春、日本共産党の機関紙である「赤旗」、批判的な見解を持つジャーナリストら、出席した多くのメディアからの質問に生中継の場で答えた。
この会見をもって問題は次のフェーズへと移行した。ジャニーズ事務所のタレントを広告に起用してきた企業が続々と起用を取りやめる動きを見せたのだ。一連の動きに対する社会の反応を簡単に整理するとおおむね3つの立場に分けられるように思える。
第1にジャニーズ事務所の解体、所属タレントも含めた厳しい社会的制裁を求める層がいる。東山が「鬼畜の所業」とまで断じた性加害行為を事実認定しながら、事務所が今までのような形で利益を出すことは許されないという考えは一つの筋ではある。
第2に事務所を擁護する従来からのファンクラブ会員など熱烈なファン層が存在している。一般的に、批判が集まる時期にこそ結束するという心理はさまざまな社会、団体で観察されるものだ。
第3にジャニーズ事務所、および現在のメディアや広く芸能界に対して状況の改善を求める人々だ。改善には事務所からの適切な補償案、契約関係にある企業からも再発防止策を求める責任が含まれる。
私の見解では同事務所の再発防止特別チームの調査報告書や、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」、および彼らに助言する弁護士も第3の立場を取っているように思える。
本稿も同様に、潮が引くように次々と契約企業がジャニーズとの関係を断っても問題は解決しないという立場を取る。キーワードは後述する「ビジネスと人権」だ。これは契約企業だけでなく、メディアや広告代理店も変化に応えていくべき問題だ。
私と本誌編集部はジャニーズ所属タレントを起用した有名企業に対して質問状を送り、起用した経緯や起用に当たってどこまで調査したかの回答を求めた。その中にはジャニーズ所属グループの「嵐」のアメリカ進出計画などに密着したオリジナルドキュメンタリーを制作・配信したネットフリックスも含まれる。同社や、同じくジャニーズタレントを起用した作品を配信しているアマゾン、広告キャンペーンを展開したセブンイレブンは回答しなかった。だが国内飲料メーカー各社などからは回答を得た(9月23日までの情報に基づく)。