最新記事
教育

「能力の差」はもう重要ではない...AIが進化した今、社会と乖離してしまった「教育」はどうあるべきか?

2023年6月16日(金)17時32分
flier編集部

好きを追究することが「利他」につながる

大賀:『冒険の書』では、『後世への最大遺物』にふれながら地球全体をよくしていくことが人間ならではの仕事とも書かれていました。「好きの追究」と「人や社会のため」をつなげていくためには、何が必要だと思いますか。

後世への最大遺物・デンマルク国の話
 著者:内村鑑三
 出版社:岩波書店
 要約を読む
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

孫:実は、本当に好きを追究して自分自身が充足すると、「もっと楽しくするには?」と、自然に自分以外の人の存在のことを考え始めるんです。たとえば、楽器をうまく弾けるようになったら、次は「周りの人と演奏するともっと楽しめそうだな」と人を誘うようになる。すると一緒にセッションを楽しむ人が増え、今度は演奏を楽しそうに聴く人たちが現れる。「じゃあ聴衆が喜んでくれるようになるには?」と考えるようになり、結果的に「利他」につながっていきます。

遊びだからこそ、どこまでも追究できる。そして、どこまでも追究できるからこそ、最終的には「究極の自己満足」、すなわち「利他」につながっていくんだと思うんです。

大賀:歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス』で、AIやアルゴリズム支配に警鐘を鳴らしました。人は神に近づこうとしてAIにすべてを委ね、ゲームばかり。そんな堕落した生物のどこが「神が選んだ種」なのかと嘆いていて、私もそれを恐れていましたが、こうやって好きを追究していいのかと勇気をもらいました。

ホモ・デウス(上)
 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
 翻訳:柴田裕之
 出版社:河出書房新社
 要約を読む
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

孫:ハラリさんはまじめな人間観の持ち主ですよね。僕は、人間は良い意味でもっと不まじめだと思っています(笑)。AIはメリトクラシーの呪縛から人間を解放してくれるリベレーター(解放者)。人はもっとラクに生きられるし、もっと遊びまくれるよと。YouTuberも、視聴者を増やそうと流行りを追う人より、自分が好きなことを楽しそうにやっている人の方が結局長く活躍しているし、魅力的ですよね。こうした現象があらゆる業界で起きていく。AIによってその傾向が加速するはずです。

大賀:学びと遊びは対極のものではないし、遊びはもっと広いもの。人間本来の欲求をドライブしていくと、自然と利他につながり、めぐりめぐって自分の生きがいにもなっていく。孫泰蔵さんとの対談で、人類に対する希望を感じました。フライヤーも、本の知にふれることの喜びを自分たちが実感して、それが周囲に広がっていくよう精進したいと思います。


230614fl_unr04.jpg

孫泰蔵(そん たいぞう)

1996年、大学在学中に起業して以来、一貫してインターネット関連のテック・スタートアップの立ち上げに従事。2009年に「アジアにシリコンバレーのようなスタートアップのエコシステムをつくる」というビジョンを掲げ、スタートアップ・アクセラレーターであるMOVIDA JAPANを創業。2014年にはソーシャル・インパクトの創出を使命とするMistletoeをスタートさせ、世界の社会課題を解決しうるスタートアップの支援を通じて後進起業家の育成とエコシステムの発展に尽力。そして2016年、子どもに創造的な学びの環境を提供するグローバル・コミュニティであるVIVITAを創業し、良い未来をつくり出すための社会的なミッションを持つ事業を手がけるなど、その活動は多岐にわたり広がりを見せている。

◇ ◇ ◇


flier編集部

本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。

通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されており、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。

このほか、オンライン読書コミュニティ「flier book labo」の運営など、フライヤーはビジネスパーソンの学びを応援しています。

flier_logo_nwj01.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中