24時間で5.5兆円が流出 シリコンバレー銀行破綻に見るデジタル時代の「取り付け騒ぎ」
SVB破綻後、米当局が預金全額を保護すると決定したことは多くの関係者を驚かせた。複数の専門家は、他の銀行からの預金流出に対して当局が、必要十分な懸念を有している表れだと話す。
ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ベロン上席研究員は「預金者がこれほど素早く動くことはなかったということが、預金全額保護決定の土台になったのだろう。SVBの預金流出(のペース)は未曽有だった」と解説した。
対話戦略の欠如
銀行業界の何人かの関係者は、新たにSVBのような破綻が起きるリスクは小さいと主張している。
その理由として、SVBの顧客層がハイテクとベンチャーキャピタル起業家という「仲間内」で固められ、ソーシャルメディア主導の預金取り付けに対して際立って脆弱だったという点を挙げた。
カリフォルニア州に拠点を置くベネフィシャル・ステート銀行のランデル・リーチ最高経営責任者(CEO)は「SVBは影響力の中心に位置し、このエコシステムに事業が集中していた。それは、別のさまざまな分野で展開している他の銀行とは異なる」と指摘した。
それでも世界各地の預金者は、たとえ自分の取引先銀行の経営が健全だと考えていても、なお安全策を講じつつある。
ドイツのあるバイオテクノロジー投資家はクレディ・スイスと取引があったが、UBSの救済合併合意以前に取材したところ、クレディ・スイスは「良い銀行」と信じているとしながらも、個人の預金を別の金融機関に移したと明かした。「SVB(の破綻)で、預金がどれほどあっという間に消えるかが分かった」という。
コーネル大学のダン・オーリー教授(法学)は、SVBの余波が大きくなったのは、当局のコミュニケーション戦略が欠如していたからだとの見方を示した。
本来なら、SVBが破綻した10日午前から週末が終わるまでに当局が「SVBは特異な事業モデルを構築しており、他の銀行はそれほど危険ではない」と説明すべきだった。だが、それをしなかったことで全ての預金者が自分のお金を心配し、金融システムの緊張が増幅されてしまったという。
実際、米国の地銀に重圧が広がり、ファースト・リパブリック銀行株は流動性を巡る懸念から20日に47%も値下がりした。
野村ホールディングスのデジタル資産子会社、レーザー・デジタルのジェズ・モヒディーンCEOは、SVBの騒ぎとソーシャルメディア上で常に思惑が行き交う現実を考えると、銀行は週末を含めて1年365日、24時間のサービス提供体制構築を最終的に迫られるのではないかとみている。
ボストン・カレッジのパトリシア・マッコイ教授(法学)は、当局側もソーシャルメディアを常に監視し、銀行の対処方法に関する指針の整備が必要になると指摘。「ソーシャルメディアで根拠不明のうわさが出回ってパニックが起き始める兆しがないか、四六時中目を光らせていなければならない」と付け加えた。
(Hannah Lang記者)