研究所にしかないはずの愛媛の高級かんきつ、中国が勝手に生産 日本への視察団が堂々と盗んでいた
ただ、現実には、無断流出は36品種などという数字には到底収まらない。そう言い切れるのは、日本のイチゴ農家から次のような話を聞いたからだ。中国・上海にある公的研究機関を訪ねた際、日本で育成された名の知られたイチゴの品種がほぼすべてそろっていたという。
出所=『誰が農業を殺すのか』
流出した品種の日中韓における生産量を比べたのが図表1だ。この表では、たとえば種なしで皮ごと食べられるブドウ「シャインマスカット」については、中国における栽培面積が日本の約29倍に達すると推計されている。
シャインマスカットの損失額は推計で100億円以上
「シャインマスカット」といえば、「農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点」が、高温多湿の条件でも果実が割れにくい品種と認めて育成したうちの一つ。大粒で香りの良いヨーロッパブドウと、病気に強いアメリカブドウをかけ合わせることで、両方の良さを兼ね備えているブドウとして、2006年に品種登録を済ませている。
その大産地は、いまや日本ではなく中国である。農水省は、中国への無断流出による損失額を推計。2022年7月、年間100億円以上に達していると発表した。品種の育成者である農研機構に本来支払われるべき許諾料(ロイヤリティ)を、出荷額の3%として計算すると、この額になるという。
韓国にも無断で流出し、中韓で栽培が広がり、タイや香港などに果実が輸出されている。したがって、農水省が試算していない、輸出機会の喪失に伴う損失額も相当あるとみるのが自然だ。
中韓から許諾料を取るにはもう遅い。農研機構が青果物の輸出を想定しておらず、海外での品種登録を怠っていたからだ。海外で品種登録できる期限は、自国内で譲渡を始めてから6年以内。「シャインマスカット」はこれをすでに過ぎているので、海外での栽培はいまや合法であり、農研機構は許諾料の支払いを求めようがない。中韓で産地化されていることは、農研機構とそれを所管する農水省の手落ちだ。
国や地方自治体が税金を投じて育種をしながら、無断流出によって図らずも海外の農業を振興し、日本農業の足を引っ張る。日本の農政はこれまで、そんな悪循環を生み続けてしまった。
窪田 新之助(くぼた・しんのすけ)
農業ジャーナリスト
日本農業新聞記者を経て2012年よりフリー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『データ農業が日本を救う』『農協の闇』など。
山口亮子(やまぐち・りょうこ)
ジャーナリスト
京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。