最新記事

世界経済

ロシア経済を急速に飲み込む「人民元」 中国から金融の安全保障

2022年11月30日(水)20時07分
人民元の紙幣

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の制裁により、ロシアの銀行や多くの企業はドルとユーロの決済網から締め出された。孤立したロシアはアジアの大国、中国から金融面の安全保障を得ようと、急速に「人民元化」を進めている。写真は人民元紙幣。2017年5月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

発光ダイオード(LED)照明の企業を営む中国の実業家ワン・ミンさんは今年、ロシア顧客向けの価格設定をドルやユーロではなく人民元でできるようになったことを喜んでいる。自社は為替リスクを抑えられ、顧客は支払いが簡便化する「ウィン・ウィン」の関係だ。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の制裁により、ロシアの銀行や多くの企業はドルとユーロの決済網から締め出された。孤立したロシアはアジアの大国、中国から金融面の安全保障を得ようと、急速に「人民元化」を進めている。

人民元は何年も前から徐々にロシアに浸透していたが、侵攻以来の9カ月間でその勢いが急加速し、ロシアの市場と貿易決済に大きく広がっている。ロイターによるデータ分析と企業・金融関係者10人への取材で明らかになった。

ワンさんの年商は約2000万ドルで、そのほとんどがアフリカと南米からの売り上げだが、「来年にはロシアが全売上高の10─15%を占めることを期待している」と話す。

ロシアの人民元化は対中貿易を促進する可能性があり、ドルの対抗軸を目指す人民元の立場を強め、西側の経済制裁効果を限定しかねない。

モスクワ取引所のデータをロイターが分析したところ、人民元/ドルの取引高は先月、1日平均約90億元(12億5000万ドル)に達した。以前は1週間で10億元を超えることさえ珍しかった。

モスクワの投資会社カデラス・キャピタルのマネジングディレクター、アンドレイ・アコピアン氏は、外貨を預金している銀行が制裁を受ける危険に触れ、「ドルやユーロ、ポンドなど、伝統的な通貨を預けておくことが突如として非常に危険になったということだ」と説明。「誰もがルーブル、もしくは人民元を筆頭とするその他の通貨に切り替えようと思ったし、そうせざるを得なくなった例もある」と語った。

事実、取引所データによると、10月の人民元/ルーブル取引高は計1850億元と、ロシアが月末近くにウクライナに侵攻した2月の80倍超に膨らんでいる。

モスクワ取引所・外国為替市場部門の幹部、ドミトリー・ピスクロフ氏は、外為市場における人民元のシェアが年初の1%未満から今では40─45%に急拡大したと述べた。

対照的に、ドル/ルーブル取引のシェアは1月の80%超から10月には約40%に下がったことが、取引所と中央銀行のデータで分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中