ロシア経済を急速に飲み込む「人民元」 中国から金融の安全保障
ロシア大企業が元で起債
国際的な資金フローにも、ロシア国内と同様の傾向が見られる。
国際決済制度SWIFTのデータによると、ロシアは4月まで、中国国外での人民元取扱高(流入・流出の金額)で上位15カ国にすら入っていなかったが、今では4位に急浮上した。
国際的な観点で見ると、9月時点で世界の資金フローの42%をドル、35%をユーロが占めており、依然としてこの2通貨の存在が圧倒的だ。人民元は約2.5%で、2年前の2%未満から拡大した。
ただロイターの集計によると、ロシアではアルミのルーサル、石油のロスネフチなど大企業7社がこれまでに人民元建てで計420億元の債券を発行している。銀行最大手ズベルバンクや石油のガスプロムネフチなども人民元建て起債を検討中だ。
中銀は利用促進
ロシアのプーチン大統領は長年ドル依存を減らそうと模索してきたが、今年は地政学という強力なエンジンが加わった。プーチン氏と習近平国家主席は2月に「無制限」の中ロ協力に合意している。この数週間後、ロシアはウクライナに侵攻した。
ロシア中央銀行のアンドレイ・メルニコフ国際協力局・副局長によると、昨年はロシアの対中貿易決済における人民元のシェアは約19%で、ドルは49%だった。今年の数字はまだ公開されていないが、メルニコフ氏によると人民元の割合が拡大している。
ロシア中銀は本記事へのコメントを控えた。
中銀のナビウリナ総裁は今月議会で、人民元の大量流入は「わが国経済の通貨構成の変容」を印象付けたと述べた。
ロシアでは人民元預金が急拡大する一方で人民元建ての貸し出しは始まったばかりで、規制当局はこの不均衡がもたらすリスクについても認識している。中銀は市中銀行に対し、バランスシートにおける人民元の資産・負債バランスの不均衡を是正するため、輸入での人民元支払いや人民元建て証券への投資、中国以外の国々との貿易における人民元の利用を増やすよう促した。
ただ当局は現時点で人民元の利用を制限することは計画していない。むしろ貸倒引当金規制を人民元については緩め、ドルとユーロについては厳格化することで、銀行の人民元利用を促進するかもしれないと、中銀のエリザベータ・ダニロワ金融安定局長は今月の会合で述べた。
(Elena Fabrichnaya記者、 Samuel Shen記者)