ビジネス人生はRPG どんなに経済が不安定でも生き残れる最強の職種とは?
複数の巨大IT企業を股にかけるスペシャリスト
彼は英語があまり得意ではありませんでしたが、過去の経験をもとにしたプレゼンテーションは多くの人を魅了し、次々に重要事項を決定へと促していました。私も負けじと英語で議論に参加しましたが、何度も彼に論破されてしまいました。
落ち込んで宿泊先のホテルに帰ろうとしたところ、突然、彼が私に「一杯飲みに行かないか? その代わり、君のおごりだぞ(笑)」と声をかけてくれたのです。
アルコールを飲めない私はそうした誘いを受けることが少ないのですが、彼自身に興味があったので、オフィス近くのレストランに飲みに行くことにしました。直後に日本とのオンライン会議が入っていたため、「1時間だけ」と決めて。
飲み始めるやいなや、彼は「面白いものを見せてやる」と言って、複数の会社の入館証を見せてくれました。マイクロソフトのみならず、他の著名なIT企業も含め、実に4つのプロジェクトに参画していたのです。
さらに驚かされたのは、データセンターに関することだけでなく、オンラインサービスやワインの輸出に関する企画など、多種多様なプロジェクトに参画していたことでした。
「アグリゲーター」という理想の職種
「名刺も複数持っているの?」と私が聞くと、「これしかない」と言って1枚の名刺を見せてくれました。そこに書かれていた肩書は「アグリゲーター」というものでした。
「アグリゲーター」とは、人・モノ・情報を瞬時に組み合わせてクライアント企業の課題を解決する新しい職種や働き方のことです。
要素を組み合わせて解決する能力
2000年前後のITバブルでは、「デザイナー」と呼ばれる職種が開発者とビジネス専門家の間に入って、多くのビジネスを創り出していました。アグリゲーターはそこからさらに進化した職種で、さまざまな業界の人を巻き込んでプロジェクトを推進する役目を担っていました。
このアグリゲーターこそ、当時の私がぼんやり考えていた理想の職種でした。
いま振り返れば、この「要素を組み合わせて解決する能力」こそ、これからの時代の、垣根のないオープンワールドを生き抜くために必要になる、と確信した瞬間でした。
オープンワールドのまったく新しい働き方
こうして私は、限られた時間で成果を出し続ける働き方、そして、「アグリゲーター」という新たな職種にトライするべく起業を決めました。
マイクロソフトを卒業した翌日にクロスリバーという法人を立ち上げ、全メンバーが週休3日で週30時間稼働、完全リモートワーク、副業(複業)しないと入れず、そして、睡眠時間は毎日7時間というアグリゲーター集団を結成しました。
オープンワールドで、まったく新しい働き方の実験を継続するべく、みずから実行に移したのです。
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。