インフレよりヤバい世界経済の現実。これまでとまるで異なる状況になる
THE REAL STAKES
パウエル率いるFRBがインフレ抑制のためにできることには限りが ELIZABETH FRANTZーREUTERS
<「ジャクソンホール会議」ではパウエルFRB議長の利上げ継続姿勢が注目を浴びたが、世界経済の大きな潮流を見落とすべきでない>
8月25日、米ワイオミング州の山荘で毎年恒例の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が幕を開けた。新型コロナのパンデミックが始まって以来初めて対面で開催された同シンポジウムには、ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長など、世界の中央銀行関係者、政策当局関係者、エコノミストが集まった。
今年の会議は、世界的に景気後退への懸念と物価高騰の脅威が高まるなかで始まった。
このような状況で、アメリカの中央銀行であるFRBは「インフレ・ファイター」としての姿勢を改めて強く打ち出し、金利の引き上げに踏み切るだろう。しかし、その効果には限界がありそうだ(編集部注:パウエルは26日の同シンポジウムで行った講演で、9月に大幅な利上げを再度行う可能性を示唆した)。
中央銀行が行う伝統的なインフレ抑制策は、金利引き上げと資産買い入れの縮小によってマネーサプライを減らし、需要の増加を減速させることを目的としている。しかし、現在の物価高騰の原因は需要の過熱だけでなく、供給の不足にもある。
モノとサービスの世界最大の供給国である中国では、ゼロコロナ政策により経済活動が大幅に抑制されてきた。
世界的に見ても、空前の熱波、人手不足、コロナ禍における移動や物流の制約により、サプライチェーンの混乱に拍車が掛かっている。
アメリカでは労働参加率がコロナ前の水準に戻っていないため、企業は人手不足に陥り、旺盛な需要に応えることが難しいのが現状だ。若くして引退生活を目指す人や、激務での燃え尽きによる退職者の増加、そしてリモートワークによる生産性の低下も、暗い影を落としている。
ウクライナ戦争もエネルギー価格と食糧価格の高騰を招く要因になった。エネルギー供給に関しては、近年のESG(環境・社会・企業統治)投資の急拡大に伴い、旧来型のエネルギー産業への投資が大幅に減っていることも見過ごせない。
FRBが金融引き締めを行い、景気が減速すれば、人々の就労意欲が高まって人手不足が緩和される可能性はある。
しかし、供給面のインフレ要因のほとんどは、FRBが直接どうにかできるものではない。
政府、企業、金融政策当局は、インフレ率1桁台中盤が続く状況を前提に対応を考えたほうがいい。これまで長期にわたり物価上昇率が中央銀行の目標値を下回り続けたのとは、まるで異なる状況になるのだ。
金利が高まれば、企業の利払い負担が増すだけでなく、企業はリスクを避けるようになり、投資を減らすだろう。