もしジョブズが生きていたら、アップルはどうなっていたか?
地球環境問題にまったく無関心だったジョブズ
ジョブズのもう1つの問題は「環境」だ。
ジョブズはMacやiPhoneのように世界を驚かせる製品を作ることには情熱を傾けるが、地球環境や、労働環境問題にはまったく興味を示さなかった。
2011年、アップルのサプライヤーの中国工場周辺での環境汚染が問題となった。環境保護NPOである「公衆環境研究センター(IPE)」など5つの環境NPOが出した「アップルのもう1つの顔」と題する一連の報告書には、アップルの27のサプライヤーで環境問題が指摘されていたのだ。
IPEはアップルだけでなく、中国に展開するグローバルIT企業27社を対象に現地調査を行い、改善対策を求め、指摘を受けた企業の多くは改善策に前向きな姿勢を見せた。ところが、アップルだけは「サプライチェーンに関する情報を開示する事はできない」と門前払いをした。
ところが、2012年になると、アップルは手のひらを返すように前向きに対応し始めた。それは、ジョブズからクックへCEOが変わった時期だった。
アップルのCEOがクックでよかった
世界では2010年代に入り、グローバル企業は自社はもちろん、サプライヤー企業の労働問題や環境問題にも責任を持つ姿勢が強く求められるようになってきた。
アップルはクックCEOの元、サプライヤーの労働条件や工場周辺の環境改善に本腰を入れている。また、再生可能エネルギー100%でのアップルの全施設の稼働を実現しただけでなく、サプライヤーにも脱炭素を進めるよう太陽光パネルの設置を勧めて、口だけでなくカネも出している。その積極性は世界トップクラスだ。
ジョブズは製品開発の一本足打法で新たな時代を生み出してきた。その後継CEOのティム・クックはオペレーション出身で新製品開発の経験はないが、時代の流れを読み、調和を重んじてアップルの強みを最大化してきた。その手腕はジョブズ以上だといえるだろう。
逆に言えば、ジョブズが癌から奇跡の復活をして、アップルのCEOを務めていたら、2010年代のアップルは大変なことになっただろう。ひょっとすると、iPhoneを越える製品が生まれていたかもしれないが、その前に会社がなくなってしまっていてはどうしようもない。
今の時代に向いているのはジョブズではなく、ティム・クックだ。アップルのCEOがクックでよかった。
著者:竹内一正(たけうち かずまさ)
作家、経営コンサルタント。徳島大学工学部大学院修了。米国ノースウェスタン大学客員研究員。パナソニック、アップル・ジャパン、日本ゲートウェイを経てメディアリングの代表取締役などを歴任。現在、ビジネスコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)、『TechnoKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』(朝日新聞出版)、『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)など。