最新記事

ビジネス

もしジョブズが生きていたら、アップルはどうなっていたか?

2022年7月19日(火)13時30分
竹内一正(作家、経営コンサルタント)
ジョブズ

権力や権威への反骨心がジョブズの創造力の源だった Daniel Munoz-REUTERS

<トランプや習近平と敵対し、環境問題には関心なし......アップルはなくなっていたかも>

スティーブ・ジョブズが逝去して11年が経つが、その間にアップルは売上を3倍以上にし、時価総額は史上初の3兆ドルを超えた。アップルの現CEOティム・クックは就任当時の不安を払拭する名経営者ぶりを見せている。

だがもし、ジョブズが元気で今もアップルのCEOをしていたら、もっと世界を驚かせる新製品を出していたのではないかと予想する専門家も多い。ジョブズに関する著作を多く出版してきた作家で経営コンサルタントの竹内一正氏が大胆な予想を展開する。

いつでも権力に立ち向かう

ジョブズは2011年に膵臓がんで逝去したが、もし、ジョブズが元気で今もアップルのCEOをしていたら、iPhone以上に世界を驚かせる新製品を出していたのではないかと予想する人たちもいる。

だが、著者はその意見には反対だ。

ジョブズがもし今、アップルのCEOをしていたら。アップルは大変なことになっていただろう。

その理由を述べていこう。

まず、ジョブズは権力や権威が大嫌いだ。小さい頃からすでにその兆候は顕著で、学校では先生に逆らってイタズラばかりしていた。アップルを興し、マッキントッシュ(Mac)を開発していた時は、当時のコンピュータ業界を支配していた巨人IBMを目の敵にして、挑みかかった。Macの有名なCM「1984」は、独裁者ビッグブラザーからMacが人々を開放する内容だが、ビッグブラザーこそIBMを意味していた。

ピクサーではアニメ映画界の皇帝ディズニーを相手にして、新参者のくせにジョブズは高飛車な態度で臨み、決まっていた契約をひっくり返して自分たちに都合のいい条件を飲ませた。

音楽配信サービスiTMS(アイチューンズ・ミュージック・ストア)を作るときには、「ジョブズは子ども扱いされる」との専門家たちの予想を裏切り、ワーナーやユニバーサルなどアメリカ5大レーベルのトップたちを相手に、楽曲配信をアップルに有利な条件で承諾させた。相手が強ければ強いほど、厚顔で戦いを挑むのがジョブズだ。

中国市場から締め出されたかも

そんなジョブズが、2017年に誕生したトランプ大統領とうまくやっていけたとはとうてい思えない。何しろトランプが大統領になって最初にしたことは、シリアを始めとしたイスラム教徒の多い6カ国からの入国禁止措置だった。ジョブズの実父はシリア人で、彼の体には半分シリア人の血が流れている。トランプ大統領に向かって「お前はレイシストだ(人種差別主義者)」と罵声を浴びせかねない。批判には倍返しのトランプなら、中国で生産したiPhoneに大幅な輸入関税をかけたかもしれない。

中国はインターネットを検閲し、監視カメラで人々を支配する。これぞ独裁者ビッグブラザーをほうふつとさせる習近平国家主席に対し、ジョブズが頭を下げるわけがない。ジョブズは思ったことはすぐ口に出さずにはいられない性格であり、それも後先を考えずに行動する。その結果、中国市場からアップル製品が締め出されるような事態に陥っていただろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中