もしジョブズが生きていたら、アップルはどうなっていたか?
権力や権威への反骨心がジョブズの創造力の源だった Daniel Munoz-REUTERS
<トランプや習近平と敵対し、環境問題には関心なし......アップルはなくなっていたかも>
スティーブ・ジョブズが逝去して11年が経つが、その間にアップルは売上を3倍以上にし、時価総額は史上初の3兆ドルを超えた。アップルの現CEOティム・クックは就任当時の不安を払拭する名経営者ぶりを見せている。
だがもし、ジョブズが元気で今もアップルのCEOをしていたら、もっと世界を驚かせる新製品を出していたのではないかと予想する専門家も多い。ジョブズに関する著作を多く出版してきた作家で経営コンサルタントの竹内一正氏が大胆な予想を展開する。
いつでも権力に立ち向かう
ジョブズは2011年に膵臓がんで逝去したが、もし、ジョブズが元気で今もアップルのCEOをしていたら、iPhone以上に世界を驚かせる新製品を出していたのではないかと予想する人たちもいる。
だが、著者はその意見には反対だ。
ジョブズがもし今、アップルのCEOをしていたら。アップルは大変なことになっていただろう。
その理由を述べていこう。
まず、ジョブズは権力や権威が大嫌いだ。小さい頃からすでにその兆候は顕著で、学校では先生に逆らってイタズラばかりしていた。アップルを興し、マッキントッシュ(Mac)を開発していた時は、当時のコンピュータ業界を支配していた巨人IBMを目の敵にして、挑みかかった。Macの有名なCM「1984」は、独裁者ビッグブラザーからMacが人々を開放する内容だが、ビッグブラザーこそIBMを意味していた。
ピクサーではアニメ映画界の皇帝ディズニーを相手にして、新参者のくせにジョブズは高飛車な態度で臨み、決まっていた契約をひっくり返して自分たちに都合のいい条件を飲ませた。
音楽配信サービスiTMS(アイチューンズ・ミュージック・ストア)を作るときには、「ジョブズは子ども扱いされる」との専門家たちの予想を裏切り、ワーナーやユニバーサルなどアメリカ5大レーベルのトップたちを相手に、楽曲配信をアップルに有利な条件で承諾させた。相手が強ければ強いほど、厚顔で戦いを挑むのがジョブズだ。
中国市場から締め出されたかも
そんなジョブズが、2017年に誕生したトランプ大統領とうまくやっていけたとはとうてい思えない。何しろトランプが大統領になって最初にしたことは、シリアを始めとしたイスラム教徒の多い6カ国からの入国禁止措置だった。ジョブズの実父はシリア人で、彼の体には半分シリア人の血が流れている。トランプ大統領に向かって「お前はレイシストだ(人種差別主義者)」と罵声を浴びせかねない。批判には倍返しのトランプなら、中国で生産したiPhoneに大幅な輸入関税をかけたかもしれない。
中国はインターネットを検閲し、監視カメラで人々を支配する。これぞ独裁者ビッグブラザーをほうふつとさせる習近平国家主席に対し、ジョブズが頭を下げるわけがない。ジョブズは思ったことはすぐ口に出さずにはいられない性格であり、それも後先を考えずに行動する。その結果、中国市場からアップル製品が締め出されるような事態に陥っていただろう。