最新記事

権力

社会を変えるのは、実は「風見鶏」タイプの人──ハーバード大学「権力の授業」より

POWER, FOR ALL

2022年7月7日(木)14時42分
ジュリー・バッティラーナ(ハーバード大学ビジネススクール教授)、ティチアナ・カシアロ(トロント大学ロットマン経営大学院教授)
風見鶏

biriberg-iStock

<強者に説明責任を負わせられなくなるときに、権力の乱用と独裁が起こる。それを避けるためにも「パワー」の源泉と性質を学ぶ必要がある。今、世界のビジネスエリートがこぞって学ぶ「権力」とは?>

人は何に価値を見出すか

突き詰めれば、人間が満たしたい基本ニーズは2つ──危険から守られる「安全」と、自分は尊敬されるべき存在だと思える「自己肯定感」である。両者は極めて根元的な欲求であり、時代や場所を超えてパワー関係の形成に寄与してきた。

人類がまず「安全」を求めるのも不思議ではない。生存本能は野生の本能であり、だからこそ肉体的、心理的な安全に直結するリソース──水、食料、住処、病気や暴力からの保護──へのアクセス権を手に入れることがパワーの源泉となる。人は安全を脅かすものを避け、危険から身を守ってくれるものに接近する。

他人の肉体的安全や生活の糧(かて)を脅かす行為はパワーを行使する武器として効果的であり、同時に相手をひどく傷つける。逆に、「危険から身を守ってあげる」という約束もまた、極めて効果的なパワーの源泉となり得る。

「安全」を求める本能が人類の置かれた不安定な状況の産物だとすれば、もう1つの「自己肯定感」を求める本能は無力感の表れだ。

安全と自己肯定感という基本ニーズを満たす手段には、さまざまな要素──富の所有、ステータス、功績、人とのつながり、自律性、倫理観など──がある(図2)。いずれも重要なリソースだが、それぞれの価値は人によって、タイミングによって、状況によっても変わってくる。

220712p18_Chart_02.png

つまり、ここまで論じてきたのは「人が何に、なぜ価値を見いだすのか」という本質を理解するための一般論にすぎず、実際に目の前の相手が求めているものを正確に知るには、相手の状況を注意深く観察する必要がある。それができて初めて、相手に名誉、富、自律性、倫理観、あるいはそれ以外の何かを提供することでパワーを得られるかどうかを判断できる。

価値あるものの所有者

組織のトップにいながらパワーを持てないというケースは多い。組織内のパワー分布を理解する基盤となった研究として、50年代にフランスの工場を舞台に行われた研究がある。

この工場では従業員は主任の指示で動き、主任はさらに上の幹部社員の指示を仰ぐ。こうした環境では、主任と幹部社員にパワーが集中するのが当然に思える。

ところが、彼らは工場内で最大のパワー保有者ではなかった。従業員(大半はたばこの製造ラインで働く女性)が主任や幹部社員に気を使う様子はない。代わりに最大のパワーを有するのはメンテナンス担当者だった。いったいなぜか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中