最新記事

金融

ユーロが20年ぶりに対ドル等価割れ その意味合いと今後の展開

2022年7月14日(木)10時37分
50ユーロ紙幣を数える女性

7月13日の外国為替市場でユーロが対ドルで約20年ぶりに1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)を下回った。写真は50ユーロ紙幣、5月30日撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

13日の外国為替市場でユーロが対ドルで約20年ぶりに1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)を下回った。一時0.9998ドルを付け、年初来の下落率は約12%に達している。

今年初め堅調だったユーロは、ロシアウクライナ侵攻がユーロ圏の物価を押し上げ、成長見通しを悪化させるとともに下げに転じた。

ユーロの等価割れが持つ意味合いや、今後の見通しを以下に解説した。

何が重大か

まず等価割れ自体が、極めてまれな事象だ。ユーロは1999年の導入以来、1ドル未満になった時間は非常に短い。前回起きたのは1999年から2002年の間。2000年10月に過去最安値の0.82ドルを記録した。もっともユーロの紙幣と硬貨が一般に流通するようになったのは02年1月で、それ以前は国境をまたぐ決済に使われていただけだ。

まだ生まれてから20年程度のユーロだが、既に世界の準備通貨としてはドルに次ぐ地位を確保し、1日当たり6兆6000億ドルが取引される外為市場においてユーロ/ドルの売買高は最も大きい。

ユーロだけが弱いのか

そうではない。ポンドや円も今年は対ドルで下がっている。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ姿勢がさらに積極化してドルの金利面での魅力を高めているほか、世界的な景気後退(リセッション)懸念から投資家が安全なドルに資金を避難させていることが一因だ。

もっとも欧州については、天然ガス価格高騰によってユーロ圏のリセッションリスクがより増大するのではないかとの観測が広がっており、これがユーロの激しい売りにつながっている面がある。

一部の大手銀行は、早ければ第3・四半期にユーロ圏がリセッションに突入すると予想している。

ユーロは一段と下落するか

何人かのエコノミストはそう考えている。野村は短期的な目標値を0.95ドルに設定した。

市場関係者の見立てでは、欧州経済の見通しが改善するまでユーロは低迷局面を抜け出せない。欧州中央銀行(ECB)が何度か利上げしても、FRBの利上げ幅の方が大きく、米国に資金が流れ込む構図だ。ECBは21日の理事会でようやく利上げを開始する見込みだが、FRBは6月に75ベーシスポイント(bp)利上げしている。ユーロ圏は、財政基盤の弱い加盟国と強い加盟国の借り入れコストに格差が生じるという「分断化」のリスクも抱える。

ユーロにとって1つプラスの材料は、足元の市場で既にユーロの売り持ちが人気を集めていることで、弱気ポジションは歴史的な高水準に迫りつつある。それがユーロの急落を防いでくれるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中