「責任者を出せ!」コールセンター・スタッフに詰め寄るクレーマーに上司が放った爽快なひと言とは
涙ぐみながら耐えている課長や、オペレーターが代わってくれと頼んでいるのに聞こえないふりをして、書類から顔を上げない課長もいる。
ヘッドセットのマイクを口元ではなく頭のほうに上げたまま、
「もしもしー、もしもしー、こちらの声が聞こえないのでしょうかー、お客さまの声ははっきりと聞こえているのですがー」
と、コントにしか思えないようなことをしている課長もいる。
「間違ったこと言ったよね」金をせびる巧妙な手口
仕組みの変更直後を狙って電話してくるクレーマーもいる。ホームページのお知らせ欄を常日頃からチェックしているのだろう。新しいサービスができたときなどは勉強会があるが、請求書の記載方法が変わった程度なら課長が朝礼で話して終わりだ。そういうときはオペレーターが個々に画面を開き、ここがこう変わったのかと自分で確認する。そのため変更直後はその内容を完全に把握していないことが多い。
朝一番の電話だった。
「有料サイトの名前って、請求書の内訳(※6)には記載されないですよね?」
同じことを二度三度と確認するので心配性の人なのだと思い、
「大丈夫です。記載されません。ご安心ください」
と答えて切った。
※6:請求書の裏側の基本使用料やパケット使用料などが記された「請求内訳」と、通話した日時や通話先などがわかる「料金明細内訳」を混同しているお客が多い。「請求の内訳がほしい」と言うので詳しく聞いてみると「料金明細内訳」のことを言っていることがよくあった。
その人から1カ月後にまた電話があった。
名前をメモしていたのだろう。電話を取ったオペレーターに私の名を伝え、代わってくれと言ったらしい。仕組みの変更が請求書上で確認できるタイミングだ。
転送されてきた電話を取ると、その人は言った。
「請求書が届いたんだけど、あなたの言ったことと違うよね。内訳にサイト名が載ってるよね。僕が確認したときにあなた、安心してくださいって言ったよね。ドコモは客に間違えたこと教えといて安心してくださいとか言うの? どうなの?」
物言いからクレーマーだとわかった。言いがかりをつけて金品をせしめようとする輩(※7)だ。
※7:「私の不在中にドコモの人が訪ねてきて母がお金を払ったんですが、ドコモは集金もやってるんですか?」という電話を受けた。詐欺だとわかり、すぐに警察に相談するよう案内したことがある。コールセンター側がクレーマーに金品を払って解決したことは、私の知る限り一度もなかった。
「責任取ってもらえるよね」恐怖の恫喝
マズいことになったと思い、いったん保留にして調べた。
私が説明をした時点では、使用したサイト名は請求書に記載されていなかった。だが、システムが変更され、今月からサイト名が請求書に記載されるようになった。この人はそれを確認したうえで電話をしてきている。
この程度の変更で損害が発生するか考えた。誰にも知られたくないサイトの名を家族に知られてしまったぐらいのことはあるかもしれないが、それが損害ということになるのか。
「間違った案内をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「そうだよね。間違ったこと言ったよね。認めるよね。責任取ってもらえるよね?」
「今回の変更で、お客さまに不利益になるようなことが何かございましたでしょうか?」
「不利益になるようなことがございましたでしょうか、じゃないよ。間違ったこと言ったわけでしょう? それに対してどう責任取ってくれるのよ」
「私にできることがあればやらせていただきますが、どのようなことでしょうか?」
「どのようなことでしょうかって、自分で考えてわからないの? あんたバカじゃないの?」
「......」
一方的にバカじゃないのと言われ、言葉に詰まった。
「あんたじゃ話にならないよ。上の人に代わってよ」
モンスターたちを黙らせる驚きの話術
「責任とはどのようなことでしょうか? 間違った案内をしたことについてはお詫びします。ただ、どのような責任でしょうか。金銭的なことでしたらお断りします」
電話は10分も経たずに終わった。
「どうしようもない奴だね。『間違ったこと言われて気分悪い、迷惑したから金払え』だって」
結局は金の要求だったのだ。クレーマーの浅知恵に安堵(あんど)しながらも、毅然(きぜん)と相手を追い詰めていくSVの話術(※8)に脱帽した。
※8:SVごとにそれぞれの型があった。仕事のできる人は、どんな相手でどれだけ時間がかかっても自分の型に持ち込んでいた。その技術があるからSVが務まるのだろう。
SVにもいろんなタイプがある。辻本さんは相手が聞く耳持たずとわかると音量を最小にし、「そうなんですねー」とひたすら話を聞き流す。30分でも1時間でも「そうなんですねー」一本やりだ。相手が疲れて電話を切ると「はい、終わり!」と元気に椅子から立ち上がり、自分の席に戻っていく。
「バカ野郎!」と大声を出す相手に「バカ野郎とは何ごとですか!」と言い返すSVもいる。そのSVは相手が喚くばかりで話を聞いてくれないと、「私の話も聞いてもらえませんか?」と問いかけ、自分のペースに持ち込んでいた。
一見SVなど務まりそうにない華奢な女性が、お客に「死ぬぞ! いいのか!」とキレられ、「どうぞご自由に、お客さまの人生ですから」と切り返していた。人は見かけによらない。爽快感があった。
吉川 徹(よしかわ・とおる)
元コールセンター従業員
1967年新潟県生まれ。大学卒業後、JAの全国連合会に就職するも、過度なストレスで体調を崩し、退職。その後、派遣社員として、ドコモの携帯電話料金コールセンター、プラズマテレビのリコール受付、iDeCo(個人型確定拠出年金)の案内コールセンターなどに勤務。