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「責任者を出せ!」コールセンター・スタッフに詰め寄るクレーマーに上司が放った爽快なひと言とは

2022年5月16日(月)11時30分
吉川 徹(元コールセンター従業員) *PRESIDENT Onlineからの転載

彼らは常人には理解できない独自のルールで生きていたり、人の話に耳を傾ける力をそもそも持ち合わせていなかったりする。

そうした人の具体的な対処方法を探してみたが、「モンスタークレーマーを納得させることができたら自信を持っていい」などとあるばかりで、現場で実際に使えそうなテクニックはついに見つけることができなかった。

トイレにすら行く暇がない...利用停止日の悪夢

利用停止日は始業と同時に電話が鳴りはじめる。コールの音(※3)がフロア全体に波のように広がり、3分後には100人近くいるオペレーター全員が応対中になる。こういうときはトイレにも行けない。ぎりぎりまで我慢し、急いで行って急いで戻る。それでも「待ち呼(※4)」が出る。

※3:利用停止日の最初のコールに真っ先に電話を取るのはいつも村井さんだった。静かな中に「ドコモ中央料金お問い合わせセンター・村井でございます」という声が響くのですぐにわかった。利用停止が始まる繁忙期初日の最初の電話はたいへんなお客に決まっている。仕事にも慣れて電話の鳴る順番を後ろにする方法を知っているはずなのに、村井さんはそれをしない。その愚直さをなぜ私生活に活かせないのかと思っていた。
※4:電話のつながるのを音声テープを聞きながら待っている人の発生すること。

「待ち呼」が出ると頭上のモニターの数字が赤く点灯する。数字が3であれば3人のお客が待っていて、20であれば20人のお客が待っている。お客を待たせてはいけない、とオペレーターは応対後の処理を後回しにして電話を取るが、課長たちは腕組みをしてモニターを見上げ、

「今、待ち呼が15人を超えました!」

などと意味のないはっぱをかけている。

そんなことをしているなら電話に出てくれと言いたくなるが、課長の中でオペレーターと同じように応対できる人はわずかだ。

管理職はセンター長1名、部長1名、次長1名、課長5名で構成され、出退勤の管理や朝礼の司会などコールセンターの運営は課長が行なっている。全員60歳以上で所属はドコモサービスだ。NTTを定年退職した人が役職を下げて再雇用されているのだという。どうりで年寄りが多いわけだ。

「上を出せ」クレーマーに対処できない残念な管理職

課長には、オペレーターでは対処できないヤクザまがいのお客を引き受けてくれる人もいるが、日がな一日請求書を折っては封筒に入れている人や、朝礼で好みの女性に体をくっつけるようにして立つ人など、いったい何をしに来ているのかという人もいる。

お客はオペレーターの案内に納得できないと「上の者に代われ」と言う。その際はSVが応対することになるが、それでも埒(らち)が明かないと「責任者と話をさせろ」と言われることもある。

責任者=課長は渡されたヘッドセットを頭につけて、保留を通話に変え、お客と話を始める。立場上は管理職(※5)ではあるが、画面の見方も操作方法も知らないのでお客と会話ができない。ただただ怒られている。

※5:オペレーターとして働いたことがないので、指導はおろか画面の見方すらわからない管理職。本人もつらいだろうが、その下で働くオペレーターもつらい。適材適所の重要性を強く感じた。

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