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液晶テレビ、スマホの次はEVか 韓国EVが欧州で急速にシェアを広げる理由

2022年3月10日(木)18時31分
さかい もとみ(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

昨年末のクリスマス前は、EVといえばテスラ車が圧倒的で、1分に1台以上は通りかかるという状況だった。ところが2月中旬時点では、テスラよりはやや少ない割合で新車でピカピカな韓国EVが混じるようになった。目下のところKiaのEVモデルが多いが、発売されたばかりの「IONIQ 5」もよく見かけ、着実に韓国EVのマーケットシェアが伸びていることが分かる。

以前は「環境車といえばプリウス」だったが......

一方で、環境に優しくないとされるガソリン車やディーゼル車の市場シェアは目に見える形で減少している。英国では2030年、EUでも35年には化石燃料で走るクルマの新車販売が打ち止めになると決まっている。欧州全体でも脱炭素の動きは着々と進んでいる背景もあって、EVへの買い替え組が増えるのは無理もない(もっとも、欧州が原子力発電由来の電力を「環境にやさしいもの」と定義づけたことに問題を感じなくもないが)。

気になる充電施設だが、これまでに「足りなくて困る」という状況は起きていないと見ている。街の随所に設けられた高速充電スペースはいつも空いているし、ついには石油元売り大手のBPが、ガソリンスタンドの空きスペースを使って充電施設を設けるほどになっている。バッテリーの性能が上がり、航続距離が大幅に伸びていることも追い風となっている。

欧州では2000年代の後半以降、テスラの登場まで、「環境車といえば、トヨタのプリウス」という認識が一般的だった。その後、コンパクトカーの「ヤリス」が広まり、ハイブリッド車(HEV)が大きく市民権を得た。ヤリスは2021年の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、高電圧(144V)のリチウムイオン電池(LIB)を搭載する本格的なHEVでもあることから、しっかりと顧客層をつかんだかに見えた。

消費者の「欲しいタイミング」を逃した日本メーカー

ところが、欧州市場で日本製環境車のシェアを脅かす2つの大きな動きが生まれた。

ひとつは、テスラの普及で消費者が「EVに大きく移行するムーブメント」が起きたタイミングで日本製EVの新型モデルが市場に存在しなかったことだ。せっかく、トヨタがHEVで欧州市場に確固たる地位を築いたにもかかわらず、EV需要に応えられるだけのモデルを用意できていなかった。そこへ、圧倒的な安さで売り込む韓国製EVが登場、日本製に流れそうな需要を一気にかっさらってしまう事態が起きた。

もう一つは、簡易的な機構を持ったマイルド・ハイブリッド車(mHEV)が、欧州で一気に普及したことだ。ブレーキ時の回生エネルギーをバッテリーに蓄え、その電力を必要に応じてモーターを回し、エンジンをアシストするという仕組みを持つ。これにより、信号待ち時のアイドリングを防げる、加速性能が増すといったメリットが生まれる。しかもLIBにかかる電圧を許容接触電圧である50Vより低い48Vにとどめた。

感電防止にかかる機構を簡略化したことで車体価格が下がった。この分野で、欧州の既存メーカーがさまざまなモデルを出したことで、相対的にプリウスなどの日本製HEVのシェアが削られたというわけだ。韓国のヒョンデやKiaもmHEVを積極的に投入、欧州ユーザーの選択肢を増やしている。

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