最新記事

自動車

液晶テレビ、スマホの次はEVか 韓国EVが欧州で急速にシェアを広げる理由

2022年3月10日(木)18時31分
さかい もとみ(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

韓国車の日本における評価は、マーケットから撤退した経緯もあって、残念ながら高いとは言えない。あるいは、日韓間の外交上の懸案などを原因とする交流の冷え込みから、韓国メーカーにとって日本が「売れない市場」になった事情もある。

しかし、英国で実際にレンタカーとして乗ってみたら、加速性能や乗り心地の点で、日本車と比べ「乗ってて困るほどの違い」は見つからなかった。むしろ、「そこそこの値段で借りられてよく走る」という手ごろな性能の良さに好感が持てたほどだ。

英国もかつては日本のように、EVが持つ航続距離への懸念、充電場所探しの面倒などから、フルプラグインタイプのEVは敬遠気味だった。英国市場におけるEVは、日産の「リーフ」をはじめ、BMWの「i3」、はたまた三菱の「i-MiEV(欧州向けモデルはプジョー iOn、シトロエン・C-ZERO)」などが先行モデルとして販売されていたが、普及が大きく進むまでには至らなかった。

「廉価版EV」が意識高い系の中間層に刺さる

それが、テスラの成功で人々の目は一気にEVへと向かった。英国における2021年の乗用車販売台数統計を見ると、ガソリン、ディーゼル車を含む全体で、テスラの「モデル3」がランキングの2番手にまでのし上がっている。EVに限ったランキングでは圧倒的なトップに輝いた。

ただ、車両価格が最低でも4万2500ポンド(英国での販売価格、約650万円)と高価で、いくら政府が補助金を打っても庶民にはやはり手が出づらい。

2021年の英国内EVモデル別販売台数

そうした市場に、3万ポンド(460万円)前半という廉価なEVを送り込んだのが韓国メーカーだ。EVが欲しいと考える「環境への意識が高い中間層」への訴求効果は抜群だったと言えようか。

「最も売れているEV」であるテスラには及ばないが、昨年の統計を見ても韓国製EVの躍進は目覚ましい。「モデル3」が3万4783台だったのに対し、Kiaの「e-niro」とヒョンデ「Kona」を合わせた数字は1万9470台に達している。


【英国における環境車の販売台数の伸び(2021年の前年比)】英国自動車製造販売協会(SMMT)より
・電気自動車(EV)......76.3%増
・ガソリンハイブリッド車(HEV)......34%増
・プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)...... 70.6%増
・マイルド・ハイブリッド車(mHEV)......ディーゼル車が62%増、ガソリン車が66.2%増

テスラばかりのロンドンで韓国EVも混じるように

21年の英国の新車販売台数は、全体の17.5%がEVまたはPHEVとなっている。つまり、新車の6台に1台はプラグインで動力を得るクルマというわけだ。これにシェア9.0%に達するハイブリッド車と合わせると、新車市場の26.5%が内燃機関(エンジン)を使わないクルマになっている。

英国での原動機別車両の市場シェア

ロンドンの街を歩いていると、韓国製EVのシェアが急激に伸びていることが肌感覚でも分かる。ロンドン中心部と同市の空の玄関・ヒースロー空港とを結ぶ国道沿いでEVの普及具合を見るべく、走行台数を数えたことがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打

ビジネス

中国の銀行が消費者融資金利引き上げ、不良債権増加懸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中