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液晶テレビ、スマホの次はEVか 韓国EVが欧州で急速にシェアを広げる理由

2022年3月10日(木)18時31分
さかい もとみ(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

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ヒョンデが日本再上陸での展開を発表したEVの「IONIQ 5」(左)と水素燃料電池車(FCEV)である「NEXO」(右) Kim Kyung Hoon - REUTERS

「環境に配慮したZEV」2種を引っ提げ日本に再上陸

日本市場からいったん撤退したヒョンデだが、先ほども触れた通り、ゼロエミッション車(ZEV)の2モデルを引っ提げ、5月の再上陸が決まった。どんなモデルなのか、改めて見てみよう。

2月8日の発表によると、販売されるのはEVの「IONIQ 5」と水素燃料電池車(FCEV)である「NEXO」の2車種。市場参入の背景は、「世界規模で高まる環境配慮への意識や、一人ひとりが個人の価値観を重視した商品選択を行う傾向の高まりを背景に、日本社会の変化に対応する商品を投入する」としている。また、ディーラー網を持たず、購入申し込みはウェブで完結。今年5月よりオーダー受付開始、7月からのデリバリーを予定する。

なお「IONIQ」というモデルは、プロトタイプ登場以来、2~4を名乗ったバージョンはなく、いきなり5を付したモデルが出てきた格好となっている。

一方の「NEXO」だが、水素と大気中の酸素で電気を生成し、それでモーターを回して走るもので、排出する物質は水しかないため、極めて環境にやさしいとされる。日本でもすでにトヨタが「MIRAI」というFCEVを販売しており、実車を市中で見かけることもある。しかし、FCEVは燃料となる水素の充填場所が普及していない、という最大の問題を伴う。「NEXO」の価格は776万8300円で、航続距離は水素満タンで最大820キロ走るのに対し、「MIRAI」は最安モデルで710万円、最大で850キロ走る(金額は税込み、補助金など含まず)。

このままでは国内シェアすら奪われる

米国の専門家の論評には、IONIQ 5について「テスラよりも売れそう」と評価するものも出てきた。デュアルモーターAWDのテスラ「モデルY」と、「IONIQ 5 Limited AWD」との比較によると、「モデルYは、フル充電時の航続距離と性能の両方の概念を極限まで高めている一方、IONIQ 5 Limitedは、モデルYよりも大幅に低い価格帯で、活発なパフォーマンス、巧妙な機能、堅実なビルドクオリティを持つことに感動した」としている。

EUが脱炭素への達成目標を明確に立てて、自動車業界にもその対応を求める中、2022年はコロナ禍からのV字回復の波に乗り、新型EVのワールドプレミアや市場投入が最も多くなると予想されている。自動車業界でも「50種類に及ぶEVがデビューまたは発売される予定で、そのほとんどがSUV」と見込まれている。

世界的なEVルネッサンスの時代がやってくるにもかかわらず、日本メーカーは残念ながら市場の流れに取り残されているような気がしてならない。快進撃を続ける韓国メーカーが日本に再上陸すれば、世界どころか国内市場のシェアを大きく侵食してくることすら危ぶまれる。欧州でのEV販売で手応えを得ている韓国メーカーが強気に攻めてくる中、日本の各メーカーはこれにどう立ち向かうのだろうか。

さかい もとみ

ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。
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※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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