最新記事

金融

オミクロン株の出現、主要国の金利政策にも「激震」

2021年11月29日(月)14時19分
ニューヨーク証券取引所

新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」が経済に打撃を及ぼすリスクが浮上し、主要中銀による利上げの見通しを揺さぶっている。最も買いポジションが膨らんでいたドルなどの通貨には、逆風が吹くかもしれない。ニューヨーク証取で2019年7月撮影(2021年 ロイター/Brendan McDermid)

新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」が経済に打撃を及ぼすリスクが浮上し、主要中銀による利上げの見通しを揺さぶっている。最も買いポジションが膨らんでいたドルなどの通貨には、逆風が吹くかもしれない。

短期金融市場は数日前まで、米連邦準備理事会(FRB)が来年6月までに25ベーシスポイント(bp)の利上げを行う確率を100%と織り込んでいた。だが、もはやそうではなくなった。欧州中央銀行(ECB)が来年末までに10bpの利上げを行う、との予想も後退した。

イングランド銀行(英中央銀行)が来月利上げする確率は、25日時点の75%から53%前後に下がった。

この変化は、南アフリカでオミクロン株が発見され、複数の国が国境管理を強化したことをきっかけに起こった。科学者は現在、ワクチンが新変異株に有効かどうかを調べている。

ダイワの経済調査責任者、クリス・シクルナ氏は「中銀のコメントはインフレの上振れリスクに集中していたが、これ(コロナの新変異株)によって、大きな下振れリスクの存在と、経済が重大な不透明性を抱える局面にあることに光が当たった」と述べた。

26日に原油価格と観光関連株は6%超の下落となり、2年物米国債利回りは12bp低下と昨年3月以来で最も大きな下げ幅を記録した。新型コロナの感染が拡大した昨年初めを想起させるパニックぶりだ。

為替トレーダーはこれまで、利上げがしっかり見通せそうなドルなどの通貨を好んできた。その背景には、高いインフレ率と経済成長率見通しがあった。しかし、そうした様相が一変する可能性が出てきたようだ。

バイデン米大統領がパウエルFRB議長再任の方針を示した22日、ドル指数は1年5カ月ぶりの高値を付けた。続いて公表された11月2、3日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、量的緩和の縮小(テーパリング)と利上げペース加速に前向きな委員が増えていたことが示された。

このため市場は、来年中に25bpの利上げが3回実施されることを織り込み、商品先物取引委員会(CFTC)のデータでは、投機筋によるドルの「ロング」ポジションが200億ドルまで積み上がった。

一方、円、スイスフラン、ユーロは、利上げは遠いとの見方から弱気ポジションが組まれていた。

INGバンクのFXストラテジスト、フランチェスコ・ペゾーレ氏は、オミクロン株によって本当にFRBの政策が混乱するなら「ドルはユーロより少し下げやすいかもしれない。FRBが来年2、3回利上げする可能性が既に語られていたからだ」と述べた。

2年物米国債利回りが急低下したことで、同年限のドイツ国債利回りとの格差は10bp縮小した。

円とスイスフランは1%余り、ユーロは0.75%、それぞれドルに対して上昇。1日の上昇率として今年最大級となったが、驚くにはあたらない。

この動きは現実と向き合うきっかけになった、と語る市場関係者もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中