イギリス金融街「負の遺産」に向き合う 奴隷貿易に関与していた過去を調査公表へ
一方で、ロンドンの保険市場における黒人及びマイノリティーの地位向上を目的に設立された「アフリカ・カリブ海保険ネットワーク(ACIN)」は、違う考えを持っている。ACINは昨年ロイズに提出した意見書で、企業は「組織が残してきたものを検証し、人種差別的な意味合いを消していくべきだ」との見解を示した。
ロイズの引受人でACIN共同創設者のジュニア・ガーバ氏は、ロイズビルの展示室に奴隷貿易への関与の証拠を展示する方がいいとし、「歴史を無視することはできないが、説明すること、教育することはできる」と語った。
深く刻まれた痕跡
ロンドンの名高い保険機構であるロイズには、奴隷貿易の痕跡が広く深く残されている。
アンガースタインが収集した美術品にはルーベンス、ラファエロ、レンブラントの作品が含まれ、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの設立時には展示品の中心となった。
ナショナル・ギャラリーのウェブサイトでは、アンガースタインと奴隷貿易の関わりについては何も言及されていない。むしろ、アンガースタインが奴隷制廃止を支持する「貧困黒人救済委員会」に所属していたとの記述がある。
ナショナル・ギャラリーはロイターに宛てた電子メールで、LBSとの協力のもとで奴隷所有と美術品収集、英国における慈善活動との関連を明らかにし、年内に暫定的な結果を公表すると説明した。アンガースタインについてもこの調査に盛り込まれる予定だ。
ドレイパー氏の調査によれば、アンガースタインは「その実績と資産の基盤となった海運保険事業において、奴隷制の恩恵を受ける身だった」という。アンガースタイン自身が奴隷貿易業者であったという証拠は存在しない。
アンガースタインをはじめとするロイズの名士たちの肖像画をどうするかという判断は、かつてシェークスピア・グローブ座のアーキビストを務めていたビクトリア・レーン氏による検証が完了した後になる。
レーン氏がロイズでの作業を開始したのは9月。ロイズが保有する美術品、刀剣類、銀器、文書を徹底的に調べている。ロイズは、レーン氏に対するインタビューの依頼を拒否した。