最新記事

米社会

元犯罪者の雇用を促進せよ、「訳あり」人材が企業と経済を救う

Second Chances

2021年10月29日(金)07時06分
ジェフリー・コーゼニック(フィフス・サード・バンクのチーフ投資ストラテジスト)
就職活動

JOVANMANDIC/ISTOCK

<元犯罪者は労働市場に埋もれた人材の宝庫。「セカンドチャンス雇用」は経済的に判断して完全に合理的だ>

「銀行業と何の関係が?」

私はいつもそう聞かれる。銀行家が刑務所や司法制度について講演や執筆などをすることはあまりないからだ。

投資ストラテジストの仕事は正式には投資戦略を立て、顧客にアドバイスすることが中心だ。ただ経済を理解するには労働市場を理解しなければならない。そこで司法制度がアメリカの労働力に与える影響も論じる必要が出てくる。

社会の病弊はアメリカの労働力に大打撃を与えてきた。その最たるものが投獄と再犯の悪循環で、将来労働力になり得る数千万の人材が労働市場から失われてきた。こうした社会問題は大規模であるが故に、真の経済問題となってきた。

アメリカは歴史的な人手不足に陥っている。求人件数は7月時点で1090万人。この状況にコロナ禍が拍車を掛けてきたが、根底には長期化する実に恐ろしい問題がある。アメリカの人口動態だ。

少子化による人手不足は移民でも完全には埋め切れない。出生率低下はアメリカだけでなく世界的現象なのだ。アメリカは最近までミレニアル世代の恩恵に浴していたが、今後10年間にベビーブーム世代が1日平均1万人のペースで退職する見込みだ。1990年にピークを迎えたミニ・ベビーブームで生まれたミレニアル世代は、既に労働力に含まれている。

生産性はオートメーション化など技術の進歩で補完できるが、それにも限度があり波もあるようだ。長期的には労働力拡大を検討するほうが重要になる。

この点で言えば、アメリカは大変な状況に陥っている。大方の予測では、(今後10年の)GDPの伸びは年平均2%未満。80~90年代の平均3~4%に遠く及ばない上、本来の変動性によりさらに鈍化することも頻繁にあり、その結果、景気後退に陥りやすくなる。

生産性の高い労働力になり得る

解決策はある。過去の出生率は変えようがないが、非労働力人口を含めて、主流から取り残されている数千万人については、打つ手がある。

こうした潜在的労働力は高齢者、子育て世代、貧困層など広範囲に及ぶ。私の経験から言えば、企業にとって最良の策は元犯罪者を雇うことだ。

この「セカンドチャンス雇用」は、経済に大いに寄与し得る。まず規模が大きく、その大部分が見過ごされ、何より、非常に生産性の高い労働力になり得る人々だらけだからだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中