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日本は「北朝鮮より下の最下位」という不都合な真実 なぜ日本は対内直接投資が低いのか

2021年8月10日(火)08時57分
リチャード・カッツ : 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載

2000年代半ばに実施された調査では、回答者の47%が、外国企業は日本経済にプラスの影響を与えていると答えており、マイナスの影響を与えていると答えたのはわずか8%だった。

かつてよく言われていた、外国の企業や投資家は日本企業を安く買って売ることで手っ取り早く稼ごうとする「ハゲタカ」だという見方をしていたのはわずか4%にすぎない。外国の企業で働きたいと答えたのは回答者の20%、働きたくないと答えたのも20%で、残りは意見を示さなかった。

後継者問題に悩む企業は断るか?

政策立案者たちが今とは反対の立場を取って、海外からのM&Aを奨励することにしたとしたら、買収をまずどこから実現しようとするだろうか。後継者問題に悩む中小企業への支援は、いいデモンストレーション効果が期待できる。調査によると、中小企業は、同じ業界や同じ都道府県内の別の中小企業が外国企業の買収を受けて成功している例が見られれば、売却により積極的になるという。

日本にはすでに日本M&Aセンターのように、後継者不足による危機に直面している健全な中小企業のためのM&Aを手がける多くの企業が存在している。こうした企業により、M&Aという概念は高齢の企業オーナーたちにもより受け入れやすいものになっている。しかし、これまでのところ海外の買い手が関わっているケースはほとんど見られない。

JETROの「ジャパンインベスト」プログラムは、外国企業が日本において、まったく新しい事業を始めることを積極的に勧めている。しかし、外国企業が日本企業を買収することは、例え生き残りのためにM&Aが必要な中小企業ですら、積極的な取り組みはない。これは、上述の2020年の報告書に従って、JETROの任務に含まれるべきである。

中小企業の70歳の経営者は、自分が引退した時に従業員が失業するのを心配している。政府が買い手を紹介し、その買い手の意図が従業員の解雇ではなく会社の成長を支援することを保証するとしたら、外国企業への売却を頑固に拒絶する人はどれだけいるだろうか。このプロセスが一度始まれば、後継者問題のない企業にも、雪だるま式で効果が出るだろう。

政府が日本の成長に本気であるならば、外国FDIを真剣に考える時である。他の先進国のように日本でも外国M&Aが一般的になることが必要である。さもなければ、2030年が来ても、日本は196位である可能性がある。

リチャード・カッツ(Richard Katz)

東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)
カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
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