東芝報告書が広げる波紋、対日投資に響く恐れ 監視強化に影響も
東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書が波紋を広げている。写真は11日、都内の東芝本社前で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書が波紋を広げている。改正外為法の運用を巡る経済産業省の主張と食い違う部分も多く、運用面での不透明さが解消できなければ対日直接投資に響きそうだ。政府が近く決定する経済財政運営の指針(骨太方針)では、中国などへの先端技術流出を念頭に「投資審査・事後モニタリング(監視)」の体制強化もうたうが、今後の議論にも影響が出かねない。
報告書を作成した弁護士らは、東芝の筆頭株主でシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが選任した。報告書は東芝が2020年7月末に開いた定時株主総会について「公正に運営されたものとは言えない」と結論づけ、経産省とのやり取りは「少なくとも改正外為法の趣旨を逸脱する目的で、不当に株主提案権の行使を制約しようとするものだった」とも指摘した。
改正外為法は19年11月の臨時国会で成立し、20年5月から施行された。問題となった東芝の株主総会は施行直後に行われた。
自国への直接投資に関する審査体制では、主要7カ国(G7)の多くが指定業種への事前届け出や審査を義務付けている。17年にイタリアが法改正で指定業種を拡大したほか、18年には米国が事前届け出制度を導入。ドイツは18年の政令改正で、事前審査の対象割合を従来の25%から10%に引き下げた。
事後介入では、フランスが19年に法改正を行ったことで全てのG7各国が株式売却を命令できる体制を取っている。米国のトランプ前大統領が中国を念頭に外資規制を強化して以降、米欧で規制の見直しが相次ぎ「日本が抜け穴になる状況を是正するためにも法改正の必要があると、最初に持ち掛けたのが経産省だった」と、当時を知る政府関係者の1人は振り返る。
この関係者によると、安倍官邸(当時)は「株価に影響しかねない。外資の締め付けに見える」との懸念から一度は退けたが、海外からの対日投資の影響を考慮し財務省が草案作成を引き取った。改正法では10%以上とする従来の基準を1%とし届け出が必要となる範囲を一気に広げた一方、政省令などで証券会社の自己売買や経営に関与しない外国運用会社を対象外とする特例も設けた。
改正法案の国会審議では、麻生太郎財務相が「株主による企業との建設的な対話は非常に重要。今回の法改正(の目的)はアクティビスト排除ではない」と繰り返し答弁した経緯がある。