最新記事

日本企業

東芝報告書が広げる波紋、対日投資に響く恐れ 監視強化に影響も

2021年6月14日(月)18時08分

東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書が波紋を広げている。写真は11日、都内の東芝本社前で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書が波紋を広げている。改正外為法の運用を巡る経済産業省の主張と食い違う部分も多く、運用面での不透明さが解消できなければ対日直接投資に響きそうだ。政府が近く決定する経済財政運営の指針(骨太方針)では、中国などへの先端技術流出を念頭に「投資審査・事後モニタリング(監視)」の体制強化もうたうが、今後の議論にも影響が出かねない。

報告書を作成した弁護士らは、東芝の筆頭株主でシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが選任した。報告書は東芝が2020年7月末に開いた定時株主総会について「公正に運営されたものとは言えない」と結論づけ、経産省とのやり取りは「少なくとも改正外為法の趣旨を逸脱する目的で、不当に株主提案権の行使を制約しようとするものだった」とも指摘した。

改正外為法は19年11月の臨時国会で成立し、20年5月から施行された。問題となった東芝の株主総会は施行直後に行われた。

自国への直接投資に関する審査体制では、主要7カ国(G7)の多くが指定業種への事前届け出や審査を義務付けている。17年にイタリアが法改正で指定業種を拡大したほか、18年には米国が事前届け出制度を導入。ドイツは18年の政令改正で、事前審査の対象割合を従来の25%から10%に引き下げた。

事後介入では、フランスが19年に法改正を行ったことで全てのG7各国が株式売却を命令できる体制を取っている。米国のトランプ前大統領が中国を念頭に外資規制を強化して以降、米欧で規制の見直しが相次ぎ「日本が抜け穴になる状況を是正するためにも法改正の必要があると、最初に持ち掛けたのが経産省だった」と、当時を知る政府関係者の1人は振り返る。

この関係者によると、安倍官邸(当時)は「株価に影響しかねない。外資の締め付けに見える」との懸念から一度は退けたが、海外からの対日投資の影響を考慮し財務省が草案作成を引き取った。改正法では10%以上とする従来の基準を1%とし届け出が必要となる範囲を一気に広げた一方、政省令などで証券会社の自己売買や経営に関与しない外国運用会社を対象外とする特例も設けた。

改正法案の国会審議では、麻生太郎財務相が「株主による企業との建設的な対話は非常に重要。今回の法改正(の目的)はアクティビスト排除ではない」と繰り返し答弁した経緯がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中