東芝報告書が広げる波紋、対日投資に響く恐れ 監視強化に影響も
今回、東芝の調査報告書が浮かび上がらせたのは「外為法による関与がどこまで正当化されるのかが不透明なことだ」と、在京の市場関係者は言う。報告書は経産省元参与の水野弘道氏の関与に言及したが、経産省幹部による「元参与に投資家への働きかけを依頼した事実はない」とする5月の国会答弁とは食い違う。
梶山弘志経産相は11日の閣議後会見で「外為法の執行に当たっては国の安全などを確保する観点から規制対象となる株主の行為を審査する上で、事業者から情報を得ることもある。こうした対応が直ちに問題になるとは考えていない」と述べた。ただ、事実認識の異なる現状では「(報告書を受けた)東芝と、経産省が今後どう説明するかで日本市場への疑念が深まりかねない」と、前出の市場関係者は語る。
懸念されるのが対日投資への影響だ。日本への海外からの投資はただでさえ少なく、実質国内総生産(GDP)に対する直接投資残高の比率は20年末時点で7.4%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の56.4%からも大きく差を付けられ、G7では最も低い。
政府は18日に閣議決定する骨太方針で、20年末に39.4兆円まで積み上げた対日直接投資残高を「2030年に80兆円、GDP比で12%とする」ことを新たな目標に掲げるが、筋書きどおり達成できるかが焦点となる。
骨太では、外為法上の投資審査・事後監査について「関係府省庁の連携強化を進めつつ、執行体制の強化を図るとともに、指定業種の在り方にかかわる検討を行う」との考えも打ち出す。
重点審査対象となる「コア業種」に指定されている楽天グループや日立金属などに対する海外企業の出資、買収案件が今年に入って相次ぎ、複数の政府関係者によると、改正外為法に基づく手続きに入っているとみられる。別の関係者は「安全保障の観点から意見交換は重要。改正外為法があるからこそ、こうした議論も生まれ、世界の潮流に照らし合わせても法律自体は意義深い」と体制強化の狙いを語る。
しかし、外為法の恣意(しい)的な運用が疑われ、米資産運用会社ブラックロックなど海外勢の疑念が再燃するようだと、対日投資拡大の政策に反して目標が遠退くだけでなく、「監視強化の議論に飛び火しかねない」(前出の関係者)と懸念する声も出ている。
(山口貴也、梅川崇 編集:田中志保)
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