最新記事

日本経済

原材料と流通費の高騰に円高まで、日本企業にコスト増の三重苦 価格転嫁できず利益圧迫懸念

2021年4月7日(水)12時17分

外為市場では、年初102円台だったドル/円が日米金利差の拡大を意識する形で110円台まで上昇し、1年ぶりのドル高/円安水準となった。巨額の財政出動で米景気が急速に回復しており、米国に資金が集まりやすい状況となっている。

為替のディーリング業務に30年以上携わってきたメガバンク関係者は「長い目でみると、今年の動きは悪い円安の出発点かもしれない」と話す。輸出産業の代表格である自動車メーカーが減産を検討するような現状で、為替の円安が日本の経済全体にとっていいことなのか」と、同関係者は言う。

中国の旺盛な需要

コスト上昇圧力がかかるすべての企業が、植物油のように価格転嫁できるとは限らない。日銀が1日に発表した短観3月調査によると、製造業では大企業、中小企業いずれも仕入価格判断で先行き上昇が見込まれる一方、販売価格判断の先行きは横ばいと小幅上昇で、価格転嫁が十分に進まない構図がみられた。新型コロナの不確実性が高く、企業が値上げに慎重な姿勢であることがうかがえた。

大豆と同じく国際商品の小麦は、今年3月までの直近6カ月、米国やカナダ産に対する中国の旺盛な買い付けや、ロシアの輸出税の引き上げ、さらに米国中西部の寒波による小麦生育への影響懸念などで値上がりした。

小麦の9割を外国産に頼る日本では政府が国家貿易で計画的に輸入し、需要者に売り渡している。農水省は直近6カ月間の平均買付価格を基に年2回の価格改定を実施しているが、21年4月期からの売渡価格は20年10月期と比べて5.5%引き上げた。

製粉企業は、国から購入した小麦を製粉工場で業務用の小麦粉に加工し、パンや麺などを製造する二次加工メーカーに販売している。この際、政府の売渡価格を反映して小麦粉価格を上下させる。製パン業界の関係者は「原材料高によるコスト上昇分を引き受けるケースも少なからずある」といい、収益への影響を懸念する。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員、丸山健太氏は「まだ需要の弱さが残っている」と指摘。その上で「ここから先、ワクチンや特効薬などで感染症をコントロール下におければ販売価格への転嫁が進むだろうが、そうでなけば企業としても苦しい状況が長引く」とみている。

(杉山健太郎 編集:久保信博)
トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBの独立性、経済成果に「不可欠」=ミネアポリス

ビジネス

米テスラ、第1四半期粗利益率が予想上回る EV販売

ワールド

ウィットコフ米特使、週内にモスクワ訪問 プーチン氏

ワールド

インド・カシミール地方で武装勢力が観光客に発砲、2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中