日本人のインスタ好きの背景に「英語が苦手な事実」あり?
まず僕たちインスタグラムのチームがやったことは、写真やカメラが好きなコミュニティに対して、アプローチすることでした。
といっても、まだインスタグラムなんて誰も知らなかった時代です。いきなり連絡して「このアプリを使って!」と言っても、話なんて聞いてくれませんよね。
もちろん、お金を使って利用してもらうことも可能ですが、そういった写真はどうしても広告的になりすぎて説得力がない。僕たちが欲しいのは、「インスタグラムを自発的に使うカメラや写真好きのユーザー」と「彼らが撮る熱量の高い写真」。
そのためには、同じ言語で話して仲良くなる必要があると考えました。誰だって知らない人よりも友人や仲間が薦めるもののほうが使いたくなりますからね。
そこで、写真やカメラの専門的な勉強をして、さまざまな写真コミュニティに参加したりしました。僕自身、話題になっていた美術館の展示のために、富山や金沢の写真クラブやコミュニティに入会して、東京から通っていたこともあります。
また、インスタグラムの特性である「目の前にある風景を共有する」という意味では、登山や料理、旅行が好きな人とも相性が良さそうだと考え、これも同じ熱量で話せるように勉強して、コミュニティにアプローチしました。
出稿してもらう広告にもこだわりました。美しいビジュアル(宣材写真)を多く持つクライアントに厳選してアプローチすることで、メディアとしての価値を高めるよう努めました。
こうした地道な努力が実を結び、インスタグラムは「熱量」の高い美しい写真がタイムラインに並ぶことで話題になり、著名人の利用者や、さまざまなメディアに取り上げられたことで、一般の人々にも浸透。わずか3年で「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれるまでになりました。
利用者が増えたことで、今では美しい写真だけでなく、著名人を含めた人々のごく普通な日常生活やマンガ、そして動画を含め、さまざまなコンテンツがタイムラインに並ぶようになりましたが(笑)。
しかし、これだけ聞くと「デジタルプラットフォームの成長戦略」というイメージからは程遠い印象を受ける。それに対し長瀬氏は、「デジタルマーケティングは決して『魔法』ではない」と語る。
デジタルの発達に伴い、あらゆるものが簡略化され、また数値化できるようになったことで「すべての問題はウェブ上で解決できる」と考えている人も多いと思いますが、それは幻想です。
例えば、ウェブ上でのつながりや関係性をグラフ化したソーシャルグラフが、現在のSNSマーケティングではもてはやされていますが、日常のすべてがSNSに投影されているわけではありません。
ソーシャルグラフに表されたデータの先には必ず人がいるし、SNS上にアップされている写真も、ユーザーが実際にその場所に足を運んだり、作ったりした「リアル」の延長です。
だからこそ、「リアル」な現場と人を大事にして、そこから熱量を伝えることがインフルエンスの基本だと考えています。
インスタグラムの利用者の中でも、「インスタグラマーズ」という自発的に発生したユーザーコミュニティ、いわばインスタファンのオフ会的なコミュニティが出来て、そのコミュニティの人たちと展示会やイベントを積極的に開催し、コアユーザーとリアルでコンタクトする機会を設けていたりもしていました。
発信する側も受け取る側も、そしてさまざまなツールを使うのも、プラットフォームを作るのも人ですから、デジタルだけで完結するものなんてこの世にはないんです。
僕は日本初のCDOですし、今までずっとマーケティングに関わってきたのでデジタルの数字ばかり追っていると誤解されている方が多いかもしれませんが、デジタル時代だからこそ数値化されない「熱量」がもっとも大事だと思っています。
『マーケティング・ビッグバン
――インフルエンスは「熱量」で起こす』
長瀬次英 著
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