最新記事

日本経済

ドル安で浮かび上がる「リスクオフ時の円高」

2020年7月28日(火)10時04分

日本の連休中に円高が進んだ主因は円以外にあるが、リスクオフ時の円高という「残像」も浮かび上がってきた。 REUTERS/Thomas Peter

日本の連休中に円高が進んだ主因は円以外にある。米中対立激化や実質金利低下によるドル安がドライバーであり、コロナ基金創設による統合深化期待が背景のユーロ高もドル安を促した。ただ、外部要因とはいえ円高が進んだことで、リスクオフ時の円高という「残像」も浮かび上がってきた。外部要因と連動し、一段の円高が進む可能性もあるとみられている。

円高ではなくドル安

日本の連休中にまた円高が進み、ドル/円は4カ月ぶりとなる105円台半ばまで下落した。しかし、今回はドル指数<.DXY>が1年10カ月ぶりの安値に下落しており、連休中の薄商いを狙った投機的な円買いというよりも、ドル安の面が大きいとみられている。

ドル安の主要因は、米中対立だ。米政府はテキサス州ヒューストンにある中国総領事館を閉鎖。これに対し、中国外務省は、四川省成都市にある総領事館を閉鎖した。「やられたらやり返す」状態になっており、一層の対立激化が懸念されている。

「トランプ米大統領は経済に影響しない程度に対中政策をとってきた。しかし、コロナで財政政策で経済を支えることになったため、関係悪化による悪影響が相対的に小さくなった。トランプ大統領の態度がはっきりしない中で、対中強硬派の意見が通り始めている」と、三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏は指摘する。

一方、財政出動は議会の対立で難航。感染が拡大し続ける新型コロナウイルスの影響で、米景気が弱くなり始めているのもドル安の要因だ。18日までの米新規失業保険申請件数(季節調整済み)は約4カ月ぶりに増加に転じた。米長期金利は低下し、金利面でもドル安の要因となっている。

ドル安の背景にユーロ高も

ドル安の裏側には、ユーロ高の進行もある。ユーロ/ドルは1.17ドル付近に上昇しており、約1年10カ月ぶりの高水準となっている。その背景はユーロの信頼回復だ。

欧州連合(EU)は今月21日の首脳会議で、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で打撃を受けた欧州経済立て直しのために、総額7500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」の創設に合意した。

すったもんだの揚げ句の合意だったが、それでも合意に至ったことを市場は評価している。「欧州経済危機の際には、空中分解も懸念されたユーロ圏だったが、コロナを機として、結束を高めようとしていることは、統合深化への期待感を抱かせる」(国内銀行)という。

米国発のサブプライム問題が起きた際も、ドル安の裏側でユーロ高が進んだ。ユーロ/ドルの史上最高値は2008年7月15日の1.6040ドルだ。今回の新型コロナでは、足元だけでみると欧州圏は相対的に米国よりもましな状況だ。こうしたこともドルからユーロにマネーがシフトする背景となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア

ワールド

米を不公平に扱った国、関税を予期すべき=ホワイトハ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中