最新記事

コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

「損切りの科学」:グーグルが活用する学知でコロナ危機を乗り越える

MECHANISM DESIGN

2020年6月1日(月)11時00分
坂井豊貴(慶應義塾大学経済学部教授、〔株〕デューデリ&ディール チーフエコノミスト)

MICHAŁ CHODYRA/ISTOCK

<コロナ不況時の資産売却で損しないためには、オークションや料金設定に応用されている「メカニズムデザイン」を生かす手もある。本誌「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より>

いかにしてコロナ騒動を生き抜くか。楽しい問いではない。何かを得るというよりは、いかに損失を減らすかという問いだからだ。失業や倒産のニュースは連日相次いでいる。疫病にはかからずとも経済的には死に得るというのが、新型コロナウイルスの恐ろしいところである。

20200602issue_cover200.jpgお金に困窮することの弊害は2つある。1つ目は単純に、お金がないとモノやサービスが買えないこと。2つ目は思考に余裕がなくなり、冷静な意思決定がしにくくなること。この2つ目は、行動経済学では広く知られる事実である。お金の困窮による心の煩いは、脳のキャパシティーを大きく奪い、判断力を下げてしまうのだ。

まずはこの事実を知っておくことが重要である。お金に困窮しているときの、自分の判断力を信じるべきではないのだ。「今の自分は冷静ではないかもしれない」という前提のもとに、他者に相談するのが賢明である。自分に相談が必要かと、いちいち考えるべきではない。

事業や投資で大きな損失を出してしまったらどうするか。やめるというのも1つの判断だ。これまで投じた資金がもったいないという気持ちを、引きずってはならない。そのお金自体は、ここでさらに賭け金を増やそうと、賭けをやめてしまおうと、いずれにせよ戻ってこない埋没費用(サンクコスト)だ。変えられない過去に拘泥して、未来への判断を誤ってはならない。

そもそも人間には、利益を好むよりも、損失を嫌うという心の傾向がある。だから投資だと、損失の確定を嫌って株を持ち続けて、その間に株価はいっそう下落することが往々にして起こる。一定割合で負けると自動的に売る「損切り」が大事なゆえんである。

損切りの発想は、投資だけでなく、事業や生活においても大切だ。まだ事業が継続できそうでも、これ以上の損失は許容できないと判断するなら、手仕舞いするのだ。生活でいうと、住宅ローンの支払いが無理だと気付いたなら、早々に住宅を売って暮らしを再設計したほうがいい。

もちろんそのような意思決定は容易ではない。事業を畳んだり、住宅を売却したりする痛みは、現在の自分が引き受けるものだからだ。一方、それによる利益は、将来の自分が得るものである。そして将来の自分とは、得てして不確かな存在だから、尊重しにくいのである。

競り上げで価値を可視化

損切りにおいては、できるだけ損失を少なくすることが大切だ。例えば住宅であれば、少しでも高く売れるよう冷静に検討する。よくある失敗は、複数の仲介事業者に売値を付けてもらって、その中で一番高い金額の仲介事業者に売却を依頼することだ。このときの売値には、あくまで「この金額の値札を付けましょう」という意味しかない。その金額が安過ぎたら損だし、高過ぎたら売れない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中