「損切りの科学」:グーグルが活用する学知でコロナ危機を乗り越える
MECHANISM DESIGN
もともと不動産は、値付けが難しい商品だ。高価な上、土地はどれも世界に1つしかないから、いわゆる相場の価格はあるようでない。相場の価格が確固としてあるのは、豊洲のタワーマンションのように、似た部屋が多くあり、しかも需要が高いものくらいだ。市況が不透明な昨今、不動産の値付けはいっそう困難な作業になっている。
こういうときはオークションでの売却を選択肢として考えたい。仮に仲介事業者が5000万円なら売れると見込むなら、そこをスタート価格にして競り上げ式でオークションをすれば、5000万円以上にはなるはずだ。もし6000万円になったら、その上げ幅の1000万円は、オークションという市場が見つけた価値だ。かつて経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、市場を「価値発見の装置」と論じたが、その機能を享受するわけである。
ただしオークションの実施には注意が必要だ。開催にはノウハウが要るし、オークション方式は細部の設計が極めて重要だからだ。例えば競り上げの締め切り間際に入札が殺到する現象に、どう対応するか。また競り上げには、インターネット上で誰でも参加できるようにするのか、あるいは事前に参加者を集め確定しておくのか。これらもろもろの調整で、結果は大きく変わる。ありていに言うと、価格が変わってくる。
損失回避を「デザイン」
経済学にはメカニズムデザインという、仕組みを設計する分野がある。オークションや料金設定、マッチングの仕組みを作るのは、この分野が特に得意とするところだ。アメリカではこうした学知の活用が盛んになっており、グーグルの広告枠オークション、ウーバー・テクノロジーズのタクシー料金設定、公立学校への進学マッチングなどは、目覚ましい成果を上げた例だ。学問は、勘や思い込みと違って再現性があるので、成功は再現させられるし、失敗は繰り返さぬよう修正できる。
日本での活用例には、筆者が仕組みの設計に携わるデューデリ&ディールという会社での不動産オークションがある。そこではメカニズムデザインの学知に基づく、良いオークション方式を活用している。ここでいう「良い」とは、買主が納得できる範囲で高い価格になり、売主もまた納得できることだ。オークションは魔法の杖ではないから、バブル期のような高値になるわけではない。だが今の時期にしては「良い」価格に達しやすい。
「ピンチはチャンス」なのだという。だがピンチはチャンスである以前に、ピンチそのものだ。行動経済学は自分を見失わないために、メカニズムデザインは損失を減らすことに役立ってくれる。
ピンチにおいてこそ知は力であり、その活用の仕方は、各人の「アフターコロナ」の迎え方を変えてゆくだろう。
<2020年6月2日号「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より>
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