「危機に強い金相場」、コロナショックでも通用するか
金にしがみつけ
08年に金融危機が訪れたのは、直近の金相場上昇局面のさなかだった。つまり、金融危機は値上がりをさらにあおった。
金融危機の初期には金融資産が幅広く急激に値下がりしたため、投資家は換金可能なものは何でも売らざるを得なくなり、金相場が急落する場面があった。新型コロナの世界的大流行が市場のパニックをもたらした今回も、同様のことは起きた。
しかし08年も今年も、各中銀が大量の資金供給に動き、債券利回りは低下。インフレが起きて他の資産や通貨の価値が目減りするリスクを避けるため、投資家は金に戻った。
バンク・オブ・アメリカのアナリストらは、大半の主要国でゼロ金利ないしマイナス金利が極めて長期化すると指摘する。一部の投資家は、中銀の資産買い入れが紙幣の印刷と同じ作用をもたらし、ドルの価値を減じて、金の魅力が再び増すことになるとみる。バンク・オブ・アメリカによれば、米連邦準備理事会(FRB)は「金を印刷することはできない」。
中国の買いは過去のものか
08年以降、金市場では中銀だけでなく個人からの需要が高まった。中銀は売り手から買い手に転じた。さらに中国のような新興国からの需要も高まっていた。中国の金消費量は03年はわずか200トン強だったが、11年には1450トンに拡大した。
今や、ロシアの中銀などは経済浮揚に追われ、金購入を減らしている。
中国とインドの金市場の成長も約10年前に頭打ちになり、今回、新型コロナによる封鎖措置で事実上、崩壊した。何百万人もの失業者が出ただけでなく、ドルが上昇すれば人民元建てやルピー建ての金価格はさらに割高になるからだ。
インド金地金宝飾協会のスレンドラ・メフタ事務局長は「国民の可処分所得が減る一方、金価格は上がっている」と述べ、同国で金の販売はさらに減るか、買い手はまったくなくなるとの見通しを示した。
消費者が金を手放す可能性もある。タイでは今月、街中で現金を得るための換金売りの長い行列ができた。HSBCのアナリストによると、今年の売却で市場に供給される金は過去最高水準に近づくと見込まれる。
インドの宝飾業界団体の会長によると、同国の今年の金消費量は350トンにまで下がり、昨年の約700トンから大幅に落ち込む可能性がある。
リフィニティブ・GFMSのコンサルタント、サムソン・リー氏によると、中国の需要も昨年の950トンから640トンに減る可能性がある。
金融商品で実物買い
金価格が上昇するには、需要の落ち込みが他で穴埋めされる必要がある。これまでのところ、ETFでそれが起きている。金を原資産とする金融商品であるETFの金投資は、年初から400トン以上増えて3300トンを超え、評価額では約1800億ドル(約19兆3000億円)と最高規模になった。
資産運用会社スプロットのピーター・グロスコプフ最高経営責任者(CEO)は、金でのヘッジ需要がずぬけたものになると予言。「不安な投資家は十分すぎるぐらいいる」と話した。
ただ、金価格がさらに急騰することに懐疑的なアナリストも多い。
年末に3000ドルの強気予想をするバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチですら、来年の平均価格は2063ドルに下がり、それから数年は2000ドル以下で推移するとの見方だ。
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