最新記事

金融

「危機に強い金相場」、コロナショックでも通用するか

2020年5月4日(月)10時14分

昔から「金は危機を愛する」という相場の格言がある。写真は16日、バンコクの店頭で取引される金(2020年 ロイター/Jorge Silva)

昔から「金は危機を愛する」という相場の格言がある。投資家が資金の逃避先を求める中、今年の金相場は年初来で13%上昇し2012年以来の高値を付けた。一段の上昇を見込む声も多い。格言はこれまでのところ、新型コロナウイルス危機でも通用するように見える。

もっとも個人も政府も収入の落ち込みを目の当たりにしている。伝統的に金の買い手であるインドや中国の消費者は購入を減らし、各国の中央銀行も金購入を削減している。こうした需要がなければ、金の一段の上昇を維持するのは難しいかもしれない。

金は経済混乱、資産や通貨の価値減少の可能性を懸念する投資家から安全目的の買いを集めている。2011年に価格が1オンス=2000ドル目前の過去最高値を付けたのと似た強気相場を予想する投資家もいる。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、年末までに3000ドルを付けるかもしれないとさえ予想する。

しかし、過去の値動きが何らかの参考になるとすれば、金が本格的にさらに上昇するには一定期間、需要増加が続くことが必要なのだ。

モルガン・スタンレーの首席クロスアセットストラテジスト、アンドルー・シーツ氏によると、インフレが金を押し上げるとか、政情不安などで金が上がるといったことをよく聞くが、値動きはそれほど簡単ではないという。

流れに乗れ

過去50年で金のめざましい強気相場は2回あった。

最初の急騰は1970年ごろ、世界で金本位制が崩れ、金の個人保有規制が緩和された局面だ。コーク大学のファーガル・オコナー氏によると、たまっていた金需要の拡大が解き放たれた。政情不安や経済混乱、投機ブームを背景に、35ドルだった金は80年には800ドル近辺に上昇した。

これが天井を付けると、20年にわたる相場低迷期を迎える。各中銀が大量売却に動いたのがきっかけだった。1999年には一時、250ドルまで下がった。

そこで潮目が変わる。市場構造が変わったのだ。欧州の各中銀は金売却の協調で合意し、相場は安定した。中国も個人の金保有規制を緩和し、市場での金購入は急増した。金を原資産とする上場投資信託(ETF)も登場、個人が金に投資するのを容易にした。

ワールド・ゴールド・カウンシルによると、金の年間需要は2003年から11年にかけて、約2600トンから同4700トン超に拡大した。

この相場上昇は、高値を嫌った需要減退で終わる。その後は昨年まで、金価格低迷が続いた。しかし、各中銀の利下げが相次ぐにつれて、債券利回りの低下とともに、利息を生まないはずの金投資の魅力が再び増すことになった。

【関連記事】
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・東京都、新型コロナウイルス新規感染91人確認 都内合計4568人に(グラフ付)
・『深夜食堂』とこんまり、日本人が知らないクールジャパンの可能性
・感染深刻なシンガポール、景気悪化で新型コロナ対応措置を段階的に解除へ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中