コロナ禍での「資産運用」に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)
Lucas Jackson-REUTERS
<「ナッジ」など斬新な理論は、投資判断から公的政策まで、賢いコロナ対応を促す。個人資産を守るにはどうすべきか。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋>
経済政策の立案から資産運用、プロスポーツチームの成績分析まで。筆者はこれまで、行動経済学の知見を生かして多種多様な課題を解決するお手伝いをしてきた。コロナ禍のさなかに出てきたさまざまな問題の解決にもこの知見を生かさない手はない。
経済学が伝統的に採用してきたのは、合理的に自己利益の最大化を追求する人間像だ。だが現実には人々はしばしば非合理な行動を取る。こうした現象は「アノマリー(例外的な事象)」として片付けられてきたが、例外的どころか日常生活のあらゆる場面に見られる。
行動経済学は人々の意思決定の根底に潜む心理的な誘因や認知バイアスを探る学問で、最近では「ナッジ(後押し)」理論など、さまざまな社会問題を解決する実践的なアイデアを提供してきた。コロナ禍の混乱や経済損失に対処するのにも役立つはずだ。個人の投資・消費行動から、公的な施策まで、具体的にアドバイスしてみよう。
株式に投資するなら株価が割安な今が好機
株式投資の最大の過ちは、市場の変動が激しくなったときに売りに走ること。行動経済学の重鎮リチャード・セイラー、ダニエル・カーネマンらが1997年に発表した著名な論文は、投資家が最悪の時期にパニック売りに走りがちな理由を解き明かしている。
それによれば株価を頻繁にチェックするタイプの投資家は、損失が出ると即座に株を売る確率が高く、最も少ないリターンしか得られない。
市場の流動性が枯渇したときは、手元にキャッシュがある人、あるいは債券に投資したカネを株式に再投資できる人たちにとっては、願ってもない好機だ。アメリカのような先進国の株式市場が20〜30%も下落する状況になると、今後を見越した期待リターン(期待収益率)は一気に高まる。今年3月末から4月初め、市場が売り注文一色になったときに米企業の株を買った投資家は、期待リターンが高い時期に買ったおかげで将来的に大きな収益を得るだろう。
株価が割安かどうかを判断する目安として、従来は株式時価総額を純利益で割った株価収益率(PER)という指標が用いられてきたが、この指標は、景気循環による利益の変動が織り込まれていないなどの難点がある。行動経済学者のロバート・シラーは、それを克服するため、株価を過去10年間のインフレ調整後の平均純利益で割ったCAPEレシオという指標を開発した。
CAPEレシオが低ければ、将来的に大きなリターンが見込める。ここ数カ月CAPEレシオは下がっており、今が買い時ということだ。