最新記事

コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

コロナ禍での「資産運用」に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)

2020年5月26日(火)18時50分
ジョナサン・ハートリー(エコノミスト、米議会両院合同経済委員会・元上級政策顧問)

Lucas Jackson-REUTERS

<「ナッジ」など斬新な理論は、投資判断から公的政策まで、賢いコロナ対応を促す。個人資産を守るにはどうすべきか。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋>

経済政策の立案から資産運用、プロスポーツチームの成績分析まで。筆者はこれまで、行動経済学の知見を生かして多種多様な課題を解決するお手伝いをしてきた。コロナ禍のさなかに出てきたさまざまな問題の解決にもこの知見を生かさない手はない。
20200602issue_cover200.jpg
経済学が伝統的に採用してきたのは、合理的に自己利益の最大化を追求する人間像だ。だが現実には人々はしばしば非合理な行動を取る。こうした現象は「アノマリー(例外的な事象)」として片付けられてきたが、例外的どころか日常生活のあらゆる場面に見られる。

行動経済学は人々の意思決定の根底に潜む心理的な誘因や認知バイアスを探る学問で、最近では「ナッジ(後押し)」理論など、さまざまな社会問題を解決する実践的なアイデアを提供してきた。コロナ禍の混乱や経済損失に対処するのにも役立つはずだ。個人の投資・消費行動から、公的な施策まで、具体的にアドバイスしてみよう。

株式に投資するなら株価が割安な今が好機

株式投資の最大の過ちは、市場の変動が激しくなったときに売りに走ること。行動経済学の重鎮リチャード・セイラー、ダニエル・カーネマンらが1997年に発表した著名な論文は、投資家が最悪の時期にパニック売りに走りがちな理由を解き明かしている。

それによれば株価を頻繁にチェックするタイプの投資家は、損失が出ると即座に株を売る確率が高く、最も少ないリターンしか得られない。

市場の流動性が枯渇したときは、手元にキャッシュがある人、あるいは債券に投資したカネを株式に再投資できる人たちにとっては、願ってもない好機だ。アメリカのような先進国の株式市場が20〜30%も下落する状況になると、今後を見越した期待リターン(期待収益率)は一気に高まる。今年3月末から4月初め、市場が売り注文一色になったときに米企業の株を買った投資家は、期待リターンが高い時期に買ったおかげで将来的に大きな収益を得るだろう。

株価が割安かどうかを判断する目安として、従来は株式時価総額を純利益で割った株価収益率(PER)という指標が用いられてきたが、この指標は、景気循環による利益の変動が織り込まれていないなどの難点がある。行動経済学者のロバート・シラーは、それを克服するため、株価を過去10年間のインフレ調整後の平均純利益で割ったCAPEレシオという指標を開発した。

CAPEレシオが低ければ、将来的に大きなリターンが見込める。ここ数カ月CAPEレシオは下がっており、今が買い時ということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中