最新記事

働き方

健康に配慮するオフィス戦略──クリエイティブオフィスのすすめ

2020年4月10日(金)17時55分
百嶋 徹(ニッセイ基礎研究所)

創造的なオフィス空間と柔軟で裁量的な働き方への変革はセットで求められる(米アップル本社Apple Park) felixmizioznikov-iStock

<企業競争力は従業員の創造性を源泉とし、それを最大限引き出すには従業員の心身の健康への配慮が不可欠となる。健康・快適性の増進に資するオフィス環境とは>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月31日付)からの転載です。

「健康経営」と「働き方改革」は「生産性革命」のクルマの両輪

経営トップは、企業にESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求める動きが世界的に拡大している今こそ、従業員の心身の健康(ウェルネス:Wellness)に配慮することを、中核的な経営課題に据えるべきだ。「『健康経営』とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める投資であるとの考えの下、従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に取り組むことである。健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待される。また、国民のQOL(生活の質)の向上やあるべき国民医療費の実現など、社会課題の解決に貢献するものであると考えられる」1。

一方、我が国で現在国を挙げて取り組まれている「『働き方改革』は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるようにするための改革である。日本が直面する『少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少』、『働く方々のニーズの多様化』などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要である。働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指す」2。

いずれもアベノミクスの成長戦略として打ち出された、「健康経営」と「働き方改革」の本質は、ともに従業員の活力・意欲・能力・創造性を存分に引き出し働きがい・快適性・幸福感を向上させることを通じて、「従業員の生産性向上」を図ることにあり、施策面で重なり合う部分も多いと思われる。経営トップは両者を、労働生産性の抜本的向上を図る「生産性革命」のクルマの両輪と捉えるべきだ。

健康経営と働き方改革の相乗効果により、プレゼンティーズム(健康問題による出勤時の生産性低下)やアブセンティーズム(健康問題による欠勤)の減少・解消を目指すことが求められる。

経済産業省と東京証券取引所は、アベノミクスの成長戦略に位置付けられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みの一環として、「健康経営銘柄」を2014年度から選定している。また、世界最大の資産運用会社である米ブラックロック(運用資産残高は2019年末で7.43兆米ドル(約807兆円))は、企業の長期的成長には働き方改革による従業員の働きがい・満足度の向上が不可欠であると考えている。健康経営や働き方改革の推進を通じた、従業員の活力や働きがいの向上は、企業の環境、社会、企業統治への取り組みを重視して株式の投資銘柄を選別する「ESG投資」の拡大とも相まって、資本市場での企業価値評価においても重要なポイントになりつつある。

従業員の生産性向上に向けた抜本改革が求められる

我が国企業において、健康経営や働き方改革を推進する施策としては、これまでのところ制度面(ソフト面)の取組が多く、従業員の生産性向上をサポートする投資を行うなどの抜本的な改革を断行するケースは、必ずしも多くないのではないだろうか。

――――――――――
1 経済産業省、株式会社日本取引所グループ「健康経営銘柄2017 選定企業紹介レポート」2017年2月21日より引用。
2 厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」(2019年4月)より引用。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 7

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中