最新記事

働き方

健康に配慮するオフィス戦略──クリエイティブオフィスのすすめ

2020年4月10日(金)17時55分
百嶋 徹(ニッセイ基礎研究所)

特に働き方改革については、これまでのところ、その本質である「従業員の生産性向上」に向けたサポートや施策がないまま、「●時以降はオフィスにいてはならない」というような一律的なやり方で、従業員にオフィス内での単なる時短の徹底を強いている企業が多いのではないだろうか。例えば、研究職や企画職などは本来裁量的な働き方が適する職種であるため、強く時間に縛られると、かえって仕事の効率が阻害されかねない。もちろん、心身の健康を害するような長時間労働は当然許されないが、一律の時短ありきの風潮には困惑している従業員も多いのではないだろうか。

本来は、経営者・管理職が業務・タスクの棚卸しを行い、強化・継続すべきものとやめるべきものに仕分けをすることは、働き方改革実施前の準備としてやっておくべき作業だ。会社側がそれを怠り仕事量がこれまでと変わらないままで、従業員にオフィス内での時短を一方的に強いると、結局自宅に仕事を持ち帰るなどオフィス外でその仕事量をこなさざるを得ないため、オフィス内での時短が達成できているように見えても、実質的な時短には全くならず、従業員のストレスはかえって蓄積するばかりで、心身の健康リスクを高めることにつながりかねない。

労働生産性は「付加価値÷(就業者数×労働時間)」で算出されるので、「付加価値=労働生産性×(就業者数×労働時間)=労働生産性×総労働時間」と展開できる。この算式から、単なる時短の徹底では付加価値が減少するだけで、成長戦略にはつながらない。不健全で過度な長時間労働を是正しながら、経済成長を果たすためには、労働生産性の抜本的な向上が欠かせない。もちろん、生産性を上げるためには個々の従業員の創意工夫も大切だが、その抜本的な向上は従業員だけでできるものではなく、経営トップがコミットすべき経営課題である。生産性向上に向けて従業員を積極的にサポートすることは、経営者の責務と捉えるべきだ。

クリエイティブオフィスを健康経営・働き方改革を推進するドライバーに位置付ける

我が国企業においては、在宅勤務やシェアオフィス・サテライトオフィスなどの利用拡大により、必ずしもメインオフィスに出社しない働き方の多様なオプションが増えつつあるものの、多くの従業員にとって、メインオフィスでの業務が依然として生活の中で多くの時間を占めている。さらに、画期的なイノベーション創出は、感情が見えにくく参加意識も希薄となりがちなバーチャルなコミュニケーションではなく、メインオフィスを中心としたリアルな場でのフェースツーフェースの濃密なコミュニケーションが起点となることが多いため、今後もメインオフィスの重要性は変わらないと思われる。

企業にとって本当に重要なのは一律的な残業規制ではなく、従業員の多様で柔軟な働き方のニーズに最大限対応しつつ、従業員の健康・快適性の増進に資するオフィス環境を提供することだ。筆者は、従業員の創造性を企業競争力の源泉と認識し、それを最大限に引き出し、革新的なイノベーション創出につなげていくための創造的なオフィス、すなわち「クリエイティブオフィス」の構築・運用が特に重要であり、経営トップは、クリエイティブオフィスを健康経営や働き方改革の推進のドライバーに位置付けるべきだ、と考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、トランプ氏は不在 容疑

ビジネス

中国は競争相手にシフト、欧州は内需拡大重視すべき=

ビジネス

米経済活動、ほぼ変化なし 雇用減速・物価は緩やかに

ビジネス

米国株式市場=4日続伸、ダウ314ドル高 利下げ観
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中