最新記事

働き方

健康に配慮するオフィス戦略──クリエイティブオフィスのすすめ

2020年4月10日(金)17時55分
百嶋 徹(ニッセイ基礎研究所)

先進的・創造的なオフィスづくりには、いくつかの共通点が見られ、筆者は、これをクリエイティブオフィスの「基本モデル(基本的な設計コンセプト)」と呼んでいる4。まずこの基本モデルを貫く大原則は、オフィス全体を街や都市など一種の「コミュニティ」や「エコシステム」と捉える設計コンセプトに基づいている、ということである(図表1)。

Nissei200410_figure1.png

筆者は、この大原則の下で、5つの具体的な原則を掲げているが、その具体原則の一つとして、「<原則⑤>健康経営を実践する視点(従業員の健康に配慮する視点)」が挙げられる(図表1)。この視点は、「従業員の心身の健康・活力、快適性、働きがいの向上に資するオフィスを構築、健康経営や働き方改革推進のドライバーと位置付けること」を指す。加えて、「<原則②>多様性を尊重する視点」、すなわち「多様な働き方など様々な利用シーンを想定した、多様でバランスの取れた働く場の選択肢を従業員に提供すること」は、働き方改革における中核的な視点であるとともに、従業員の健康・快適性にも間接的に効いてくる重要な視点である、と考えている。

「企業が事業継続のために使う不動産を重要な経営資源の一つに位置付け、その活用、管理、取引(取得、売却、賃貸借)に際し、CSR(企業の社会的責任)を踏まえた上で、企業価値最大化の視点から最適な選択を行う経営戦略」を「CRE(企業不動産:Corporate Real Estate)戦略」と呼ぶが、クリエイティブオフィスの構築・運用も、このCRE戦略の下で組織的に取り組まなければならない5。

また、創造的なオフィス空間を活かすためには、柔軟で裁量的なワークスタイルの許容が不可欠であり、働き方にも創造的な要素を取り入れる必要がある。すなわち、企業は、創造的で自由なオフィス空間の整備と柔軟で裁量的なワークスタイルへの変革を、セットで推進することが求められる。経営トップには、クリエイティブオフィスの構築段階で、オフィスに経営理念をしっかりと埋め込み、オフィスを経営理念や企業文化の象徴と位置付けて、全社的な拠り所として求心力を持つ場に進化させていくことが求められる。そして運用段階では、ワークスタイルの変革をしっかりと遂行しなければならない。クリエイティブオフィスの基本モデルにワークスタイル変革と経営理念を注入することで初めて、基本モデルを各社仕様にカスタマイズして実際に起動させることができるのである。

――――――――――
4 創造的なオフィスづくりの共通点やクリエイティブオフィスの基本モデルについては,拙稿「クリエイティブオフィスのすすめ」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研所報』Vol.62(2018年6月),同「第7章・第1節 イノベーション促進のためのオフィス戦略」『研究開発体制の再編とイノベーションを生む研究所の作り方』(技術情報協会,2017年10月),同「クリエイティブオフィスの時代へ」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2016年3月8日,同「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年8月号を参照されたい。
5 先進的なグローバル企業のCRE戦略には、(1)創造的なワークプレイスの重視に加え、(2)CREマネジメントの一元化(専門部署設置による意思決定の一元化とIT活用による不動産情報の一元管理)、(3)外部ベンダーの戦略的活用、という3つの共通点が見られ、筆者は、これらをCRE 戦略を実践するための「三種の神器」と呼んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

景気判断16カ月連続維持、「緩やかに回復」=12月

ビジネス

英小売売上高、11月は前月比0.1%減 予算案控え

ビジネス

日銀総裁、中立金利の推計値下限まで「少し距離ある」

ワールド

与党税制改正大綱が決定、「年収の壁」など多数派形成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中