健康に配慮するオフィス戦略──クリエイティブオフィスのすすめ
創造的なオフィス空間と柔軟で裁量的な働き方への変革はセットで求められる(米アップル本社Apple Park) felixmizioznikov-iStock
<企業競争力は従業員の創造性を源泉とし、それを最大限引き出すには従業員の心身の健康への配慮が不可欠となる。健康・快適性の増進に資するオフィス環境とは>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月31日付)からの転載です。
「健康経営」と「働き方改革」は「生産性革命」のクルマの両輪
経営トップは、企業にESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求める動きが世界的に拡大している今こそ、従業員の心身の健康(ウェルネス:Wellness)に配慮することを、中核的な経営課題に据えるべきだ。「『健康経営』とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める投資であるとの考えの下、従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に取り組むことである。健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待される。また、国民のQOL(生活の質)の向上やあるべき国民医療費の実現など、社会課題の解決に貢献するものであると考えられる」1。
一方、我が国で現在国を挙げて取り組まれている「『働き方改革』は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるようにするための改革である。日本が直面する『少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少』、『働く方々のニーズの多様化』などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要である。働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指す」2。
いずれもアベノミクスの成長戦略として打ち出された、「健康経営」と「働き方改革」の本質は、ともに従業員の活力・意欲・能力・創造性を存分に引き出し働きがい・快適性・幸福感を向上させることを通じて、「従業員の生産性向上」を図ることにあり、施策面で重なり合う部分も多いと思われる。経営トップは両者を、労働生産性の抜本的向上を図る「生産性革命」のクルマの両輪と捉えるべきだ。
健康経営と働き方改革の相乗効果により、プレゼンティーズム(健康問題による出勤時の生産性低下)やアブセンティーズム(健康問題による欠勤)の減少・解消を目指すことが求められる。
経済産業省と東京証券取引所は、アベノミクスの成長戦略に位置付けられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みの一環として、「健康経営銘柄」を2014年度から選定している。また、世界最大の資産運用会社である米ブラックロック(運用資産残高は2019年末で7.43兆米ドル(約807兆円))は、企業の長期的成長には働き方改革による従業員の働きがい・満足度の向上が不可欠であると考えている。健康経営や働き方改革の推進を通じた、従業員の活力や働きがいの向上は、企業の環境、社会、企業統治への取り組みを重視して株式の投資銘柄を選別する「ESG投資」の拡大とも相まって、資本市場での企業価値評価においても重要なポイントになりつつある。
従業員の生産性向上に向けた抜本改革が求められる
我が国企業において、健康経営や働き方改革を推進する施策としては、これまでのところ制度面(ソフト面)の取組が多く、従業員の生産性向上をサポートする投資を行うなどの抜本的な改革を断行するケースは、必ずしも多くないのではないだろうか。
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1 経済産業省、株式会社日本取引所グループ「健康経営銘柄2017 選定企業紹介レポート」2017年2月21日より引用。
2 厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」(2019年4月)より引用。