最新記事

ビジネス

「情報銀行」は日本の挽回策となるのか

2019年12月20日(金)16時20分
中村 洋介(ニッセイ基礎研究所)



ただ、データを集めようにも、消費者にとって魅力あるサービスでなければデータが集まらない。消費者がデータを提供したいと思うような便益(対価)を提供出来るかどうかがポイントになる。実際にデータを提供しても数十円から数百円分の現金やポイントにしかならないといったことは十分にあり得るだろう。また、クーポン(もしくは「お得な情報」)が提供されても、似たようなクーポンや情報が溢れている中、価値を見出せない消費者もいるだろう。如何にして、消費者にデータを提供するメリットを訴求できるかが問われよう。

当然、安心してデータを預けられる管理体制の構築も必要だ。また、消費者がスマートフォンやパソコン上で容易にストレス無く操作、管理出来るユーザーインターフェースも重要だ。操作や管理が煩雑で分かりにくいようだと、消費者が魅力を感じられずに離れていってしまう。安心、透明性、分かりやすさが求められるだろう。

今後に向けては、データ様式・形式等の標準化やルール作り、行政が保有するデータの活用、データポータビリティ(自分のデータを引き出し、他に移せる仕組み)の導入、慎重意見もある健康・医療データの流通等についても議論が進んでいくと見られる。データビジネスの展望に影響するだけに、これらの議論の行方を注視したい。

おわりに

政府の旗振りもあって、情報銀行等のデータビジネスに熱い視線が注がれている。金融機関やインターネット企業等、様々な企業が業種の垣根を越えて競争を繰り広げることになりそうだ。データを活用したインターネット広告で稼いでいるグーグルやフェイスブックは、色々と批判を巻き起こしてはいるが、ある意味で非常に洗練されたビジネスモデルを作り上げた。飛び抜けて優秀な人材が集まるだけに、批判されている点を克服し、新たな進化を遂げる可能性を秘めている。日本の情報銀行等のデータビジネスを、こうした巨大IT企業に伍するレベルに高めていけるだろうか。「個人情報の取扱に関する不安、懸念」が根強い一方、「面倒なことはしたくない」と思う消費者を満足させるとともに、しっかりと利益を獲得していくには「もうひと工夫」必要だろう。企業の創意工夫や試行錯誤によってビジネスモデルが進化し、データビジネスで出遅れた日本にとって、真の意味での挽回策となることに期待したい。

――――――――――
* あくまで「任意」の認定であって、認定が無いと事業が行えない制度とはされていない

Nissei_Nakamura.jpeg[執筆者]
中村 洋介
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中