「情報銀行」は日本の挽回策となるのか
消費者にデータを提供するメリットを訴求できるかが問われる metamorworks-iStock
<膨大なデータを収集・活用することで収益を上げる米中IT企業。データビジネス競争に乗り遅れた日本政府は、巨大IT企業に疑念を抱く消費者の味方となることで巻き返しを図る>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2019年11月8日付)からの転載です。
「情報銀行」とは
世界的なデジタル化の潮流の中、米中の巨大IT企業が圧倒的な存在感を放っている。日本はデジタル化の大きな波に乗り遅れてしまったのではないかという懸念の声は強い。データ利活用も、米中の巨大IT企業のレベルにはとても及ばない。こうした課題意識を背景に、我が国のデータ利活用を推進するための方策の1つとして検討されてきたのが「情報銀行」である。
情報銀行とは、消費者(個人)が自分のデータ(例えば、行動履歴や購買履歴のデータ)を提供し、その対価として金銭、クーポンやポイントをはじめ、お得な情報に至るまでの様々な便益を受け取れる仕組み(事業)である[図表1]。
消費者が、データを情報銀行に提供する(預ける)。データは、アンケートのように消費者自らが入力し提供する場合もあれば、消費者が使用するサービスの運営事業者が保有するデータを提供する場合もあるだろう(例えば、スマートフォン向け健康管理アプリの事業者が保有する個人の歩行・歩数履歴データ等)。データの提供を受けた情報銀行は、消費者による意思、事前に提示した条件等に基づいて、データ利用を希望する第三者(事業者)に提供する。消費者の意に沿わないデータ提供は行われないようになっている。そして、データの提供を受けた第三者から、消費者に直接または間接的に情報銀行から便益(対価)が還元される。データ提供を受けた第三者はそのデータを活用して、その消費者個人の特性や趣味・嗜好に合わせて個別最適化されたサービスや商品を提供することに活かす、または大量のデータを取得・分析して新しい商品の開発やマーケティング戦略に活かす、といったことが考えられる。
足もと、情報銀行事業に参入を検討する企業も増えている[図表2]。
例えば、電通系のマイデータ・インテリジェンスは、情報銀行サービス「MEY(ミー)」を提供している。そのスマートフォンアプリ(サービス)に登録すると、ユーザーのデータを活用したい企業からオファーが届く。ユーザーはデータの利用目的やその対価(返礼)を確認して、気に入ったものだけにデータを提供することが出来る。対価として、ポイントや電子マネー、お得な情報等が受け取れるという。また、三菱UFJ信託銀行が2020年4月から情報銀行サービスの提供を開始すると発表している他、実証実験に取り組んでいる企業もある。民間事業者による任意*の認定制度も出来た。(一社)日本IT団体連盟が情報銀行の認定事業を開始しており、2019年6月には三井住友信託銀行、フェリカポケットマーケティングの2社の計画が、情報銀行サービスが開始可能な状態である運営計画として認定を受けた。今後、更に認定事業者が増えていくであろう。