最新記事

日本社会

ポイント還元終了してもキャッシュレスは定着するか? 生産性改革のカギにも 

2019年11月2日(土)12時06分

消費税率引き上げを契機にキャシュレス決済の勢いが増しつつある。ポイント還元など政府の施策もあり、利用者拡大は順調だ。背景には、労働力減少を補う生産性向上への政府の危機感がある。写真は都内で10月撮影(2019年 ロイター/Tetsushi Kajimoto)

消費税率引き上げを契機にキャシュレス決済の勢いが増しつつある。ポイント還元など政府の施策もあり、利用者拡大は順調だ。背景には、労働力減少を補う生産性向上への政府の危機感がある。支払いの迅速化と消費拡大、訪日客の決済利便性、データ活用による新商品開発など、キャッシュレス化を契機に流通・小売の課題解消が期待されている。ただ消費の現場からは、現金信仰の強い日本で電子決済が定着するか不透明、との声も出ている。

1日10億円、キャッシュレス比率30%に迫る

QRアプリを手掛けるPayPay(ペイペイ)では、10月1日時点で会員数が1500万人に達した。8月上旬から10月1日までのおよそ2カ月で500万人増加した。増税に先駆けて一気に拡大したという。

急速拡大の背景には、独自のポイント還元や、店側の手数料を21年9月まで無料とするキャンペーンのほか、売掛金を嫌う日銭商売の小売店のために翌々営業日での売上金振り込みを実施していることがある。

同社事業推進室・柳瀬将良室長は「ビジネスの継続性を確保するためにはコストを下げることに尽きる。今は普及段階なので赤字覚悟でやっている」と語り、全国での導入店舗拡大に力を入れている。

JR東日本の扱うSuicaなど決済カードの会員数は、10月20日時点で1128万人。8月までは月に3─4万人の増加ペースだったが、9・10月の2カ月での増加分は100万人超。鉄道乗車でのポイント付与を始めたほか、政府によるポイント還元施策が始まったことが大きいという。

さらに小銭不要の支払いは消費者にとっても店舗にとっても便利だ。祖山智幸・IT・Suica事業本部・決済事業部次長は「現金払いという習慣を変えるための1つの大きな要素が、利便性だと思う」と述べている。

経済産業省によると、ポイント還元制度には11月1日現在、対象店舗約200万店に対し64万店が参加しており、11日には73万店に拡大する見通し。還元額は1日平均約10億円強(10月1日から21日の平均)となっており、今年度予算の上積みが検討されるほど「順調な滑り出し」(キャッシュレス推進室)となっている。

売上に占めるキャッシュレス決済の比率は、例えばローソンの場合、10月中で概ね25%程度、30%台に迫る勢いだという。ただ2015年当時のデータでも、中国は60%、米欧など他の先進国は50%前後。それに比べると、日本の比率はまだかなり低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中