最新記事

環境問題

海運業界、2050年のCO2半減に向け苦闘 高まる社会的責任

2019年10月29日(火)16時16分

高機能の塗装から最先端技術を駆使したスクリューまで、海運会社は二酸化炭素(CO2)排出量を削減するため、あらゆる細部にまで工夫を凝らしている。写真はロシアのドン川を航行するタンカー。2016年9月撮影(2019年 ロイター/Maxim Zmeyev)

高機能の塗装から最先端技術を駆使したスクリューまで、海運会社は二酸化炭素(CO2)排出量を削減するため、あらゆる細部にまで工夫を凝らしている。投資家や環境保護団体からのプレッシャーが高まっているためだ。国連機関である国際海事機関(IMO)は、2050年までに温室効果ガスの排出量を2008年水準の半分に削減する目標を掲げている。

航空会社や海運会社は石油資源に依存しており、二酸化炭素排出量の削減を求める声に直面している。欧州環境機関によれば、何の対策も行われなければ、両部門は2050年までに世界の二酸化炭素排出量の40%を占めることになる。

IMOによれば、世界の二酸化炭素排出量に国際海運が占めるシェアは現在2.2%で、航空輸送の2%を上回っている。

オランダの銀行INGでグローバル海運部門を率いるスティーブン・ヒュースター氏はロイターに対し、「船舶は最長25年にもわたる長寿命の資産だ。海運産業がIMOによる目標の達成をめざすなら、より環境負荷の小さな船舶に切り替えるペースを加速する必要がある」と語った。

今年開始された民間のイニシアチブでも、燃料効率の良い船舶への融資に対する見解が示された。海運セクターは少なくとも200億ドル規模の資金不足にある。

環境負荷の小さいタイプの利用可能な燃料やインフラに関する全面的な見直しがなければ、海運産業が2050年までの目標を達成できるかどうかは疑わしい。一方、海運各社は現在、数十億ドルはかかるとみられる改革努力を続けている。

乾貨物(ドライカーゴ)船舶のチャーター規模で世界最大の顧客の1つである米国の農産企業グループ、カーギルでは、2020年までに貨物1トンマイルあたりの二酸化炭素排出量を、2016年水準に比べ15%削減する目標を掲げており、すでに12%以上もの削減に成功している。

削減策の1つが、高機能塗装の採用である。これによって船体外殻が滑らかになり、航海中に消費するエネルギーが少なくなる。

カーギルの海上輸送事業部門のジャン・ディールマン社長はロイターに対し、「業界全体が他のイニシアチブと合わせて通常の塗装から先進的な塗装へと移行していけば、排出量の削減という点でかなりの効果が期待できる」と語った。

イタリアの海運企業グリマルディ・グループで社長兼マネージング・ディレクターを務めるエマヌエーレ・グリマルディ氏は、塗装変更に加え、保有船舶30隻のスクリュープロペラを改良したと話す。

また燃料節約のため、グリマルディでは夜間に港湾水域に入る際の速度を落とし、各船舶がより多くの貨物を積めるよう、一部の積載容量を拡大したという。

「こうした小さな努力をたくさん積み重ねることが、変化につながる」とグリマルディ氏は語る。グループ全体では年間の二酸化炭素排出量を30万トン減らした、という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中