海運業界、2050年のCO2半減に向け苦闘 高まる社会的責任
高まるプレッシャー
IMOでは、船舶エンジンから二酸化炭素排出量を削減する方法として燃費を改善するため、新造船については強制的なルールを採用。
9月には、ゼロ・エミッション(二酸化炭素排出量ゼロ)の船舶・燃料を2030年までに実用化することをめざしたイニシアチブが開始された。
非営利団体CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は6月に発表した報告書のなかで、上場している海運会社上位18社のうち、低炭素化への対応が最も進んでいる海運会社として、日本郵船、マースク、商船三井の3社を選んだ。
世界最大のコンテナ海運会社であるマースクは、2050年までに、事業活動からの二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」を達成する目標を掲げており、保有船舶のうち約150隻の改造に過去4年間で10億ドルを投じている。
CDPの広報担当者は「こうした措置は、IMOの目標を達成するために必要な設備投資全体のごく一部にすぎない」と語る。
世界各国の専門家による委員会であるエナジー・トランジション・コミッションによる昨年の報告書によると、海運産業の全面的な脱炭素化に要するコストは2050年のGDP合計の0.2%以下、年間6000億ドル以下だ。これに対して、航空産業の完全な脱炭素化のコストはGDPの0.13%以下、年間5000億ドル以下という。
シンクタンクのロッキーマウンテン研究所のマネージング・ディレクターを務めるネッド・ハーベイ氏は、「マースクが掲げた目標は意義が大きい。世界の航空会社でも、これほどのコミットメントを示した企業はない」と語る。「金融業界は気候変動対策を真剣に考えており、対策の実現に動きつつあるし、顧客もサプライチェーンの低炭素化を求めている」という。
コンテナ海運会社として世界第2位につけるスイスのMSCは、2015年から18年にかけて、輸送トンマイルあたりの二酸化炭素排出量を13%削減した。
同社は、保有する250隻以上の船舶を改造し、スクリュープロペラや球状船首、高性能エンジンなど最新の設計を採用した。
また、二酸化炭素排出量を最小限に抑えるよう設計された世界最大のコンテナ船「MSCガルサン」など巨大新造船11隻を配備している。
「2030年以降について、この業界のコンテナ船団や海運セクター全体を見渡した場合、二酸化炭素その他の温室効果ガスに関する将来的な目標を達成するには、燃料及び推進技術において何らかの技術革新が必要になるだろう」とMSCグループのバド・ダール執行副社長は言う。
環境負荷の小さい燃料として液化天然ガス(LNG)利用への関心が高まってはいるものの、採用ペースは遅い。複数の専門家・海運関係者は、水素やアンモニアなど他の選択肢についても普及には時間がかかるし、コストも高いと話している。
ノルウェーの海運会社トルバルド・クラブネスのラッセ・クリストファーセン社長兼CEOは、先月開催された海運関係のカンファレンスで、「状況はますます厳しく、残された時間は少なくなっている。今後10年間でゼロ・エミッション船舶を建造する必要がある。LNGに関わって時間を浪費する必要はない」と述べた。