最新記事

貿易戦争

トランプ突然の対中関税引き上げ 原因は中国の「合意内容ほぼ白紙に戻す」大幅な修正要求

2019年5月9日(木)06時00分

複数の米政府関係筋と民間の関係筋によると、中国政府は、米中貿易交渉の合意文書案の全7章に修正を加えて、米国側に提示したことが明らかになった。北京で1日撮影(2019年 ロイター/Andy Wong)

複数の米政府関係筋と民間の関係筋によると、中国政府は、米中貿易交渉の合意文書案の全7章に修正を加えて、米国側に提示した。合意文書案は150ページ近くに及ぶが、中国政府が加えた修正は、これまでの交渉を白紙に戻すような内容だったという。関係筋によると、中国政府は、知的財産・企業秘密の保護、技術の強制移転、競争政策、金融サービス市場へのアクセス、為替操作の分野で、米国が強い不満を示していた問題を解決するために法律を改正するとの約束を撤回した。

修正後の文書がワシントに届いたのは今月3日の夜。その後5日にトランプ米大統領が対中関税の引き上げをツイッターで表明した。

ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、中国側が過去に改革の約束を守らなかったため、中国に合意事項を順守させるには法改正が不可欠との立場を示している。

協議に詳しいワシントンの関係筋は「(中国側は)通商合意の核となる構造の土台を壊してしまった」と述べた。

ホワイトハウス、USTR、米財務省、中国商務省のコメントはとれていない。

関係筋によると、中国の劉鶴副首相は先週、ライトハイザー代表とムニューシン財務長官に対し、中国が行政上・規制上の変更を通じて約束を果たすと信頼してほしいと伝えたが、ライトハイザー、ムニューシンの両氏は、副首相の案を拒否したという。

協議について説明を受けたある民間の関係筋は「中国側に欲が出てきたため」前回の交渉が前進しなかったと指摘。「中国は米国の現政権について計算ミスをしているようだ」と述べた。

<単なる交渉戦術でない>

市場では、トランプ氏の関税引き上げ表明について、交渉戦術ではないかとの見方も浮上しているが、関係筋によると、中国による合意文書案の修正は深刻なもので、トランプ氏の反応は単なる交渉戦術ではないという。

通商協議に詳しい中国の当局者は、中国では法改正に長い時間がかかると指摘。米政府は中国側の姿勢が後退したと主張しているが、交渉が進むにつれ、米国の要求は「厳しい」ものになり、合意への道筋が「狭まって」いったとコメントしている。

劉鶴副首相は通商協議のため9─10日に訪米する。一部の関係筋は、貿易戦争のエスカレートを回避するには、副首相が合意文書案の修正を撤回し、法改正に同意する必要があると指摘。

中国の産業補助金縮小や米国の遺伝子組み換え作物の承認手続き合理化など、米国側の他の要求についても、歩み寄りが必要になるとの見方を示している。

[ワシントン/北京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 トランプ関税大戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月15日号(4月8日発売)は「トランプ関税大戦争」特集。同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、4月速報値悪化 1年先期

ビジネス

米3月の卸売物価は前月比下落、前年比の伸び鈍化 見

ビジネス

中国、海外委託の米半導体は報復関税免除 AMD・イ

ビジネス

JPモルガン、1─3月期は増益 ダイモンCEO「経
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中