2019年世界経済「EU発の危機」の不気味な現実味
EUROPE IN CRISIS?
ILLUSTRATION BY ROY SCOTT/GETTY IMAGES
<イタリアの財政危機よりも深刻な、ブレグジットによるEU崩壊。また、欧州には経済低迷以外にも複数の懸念材料がある。欧州から始まる危機が、果たして世界をのみ込むのか>
※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。
政治の行方は結局のところ経済によって決まると、よく言われる。だが、2019年のヨーロッパ経済の行方を占うときはその反対、つまり「経済の行方は政治によって決まる」と言うほうが、極めて現実に近いように感じられる。
ユーロ圏を取り巻く世界経済は、つい最近まで楽観論と自信に満ちていた。ところが今は不安と不透明感ばかりが目立つ。そして不透明感ほど市場が嫌うものはない。
表面的には、全てが好調に見える。2008年のアメリカのサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅ローン)危機に端を発した世界同時不況から10年。EU経済もついに本格的に立ち直り始めたかに見える。
かつてベン・バーナンキ元FRB議長は、量的緩和(QE、利下げだけでなく国債などの資産を買い入れることで市場に資金を直接供給する方策)という究極の資金供給策と、政府の思い切った景気刺激策がなければ、2008年の不況は1930年代と同レベルの大恐慌に発展していただろうと語っている。アメリカは歴史的に「市場の見えざる手」を宗教的と言っていいくらい信奉してきたが、あのときばかりは量的緩和と政府の景気対策という「劇薬」を(しぶしぶ)飲んで危機を乗り切った。
ヨーロッパがこの劇薬を飲むのは遅かった。それでも2015年3月、イタリアなどの公的債務危機に直面したECB(欧州中央銀行)は、いつもの臆病な態度を捨てて、量的緩和に踏み切った。そして2018年12月、マリオ・ドラギECB総裁は、この量的緩和の終了を宣言した。
ところが市場はこの決定を時期尚早と判断し、市場ではユーロが売られた。しかもドラギは10月末に任期満了を迎える予定で、後任総裁がどの国出身者になるかという政治的要因が、ユーロ圏経済の見通しを一段と悪くしている。さらにイタリアの財政問題が、ここ数カ月はヨーロッパ経済の成長の足を引っ張っている。
ただ、イタリア経済よりも深刻なのは、EUの存在自体が内外から大きな脅威にさらされていることだ。
合意なきブレグジットの衝撃
EUは1951年、加盟国間で石炭と鉄鋼の関税を撤廃して、共同市場を形成する純粋な経済共同体としてスタートした。だが今、この経済共同体の根幹が脅威にさらされている。なかでも明白な脅威は、イギリスのEU離脱(ブレグジット)だ。ブレグジットが最終的にどのような形を取るかは、EUとの関係を緩和したい他の加盟国の態度に大きな影響を与えるだろう。
EUとイギリスは「離婚条件」について協議を重ねてきたが、たとえ合意がまとまらなくても、EUのルールにより、イギリスは3月29日に自動的にEUを離脱することになっている。それによってイギリスが受ける打撃が大きいほど、同じ道を選ぶ加盟国は減るだろう。だが、ブレグジットで傷を受けるのはイギリスだけではない。