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世界経済入門2019

トランプ「給料を高く高く高く」政策の成績表 米経済の不安材料は?

WHOSE ECONOMY IS IT?

2018年12月26日(水)16時15分
ビル・パウエル(本誌シニアエディター)、ニーナ・バーリー(政治担当記者)

ILLUSTRATION BY GLUEKIT, RICKY CARIOTI-THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES (TRUMP), CAROLINE TOMLINSON-IKON IMAGES/GETTY IMAGES (GRAPH)

<株式市場は好調で、失業率も改善。大型減税と規制緩和路線の成果だと政権は胸を張るが、不安材料も山積している。2019年、アメリカ経済はどうなるか>

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(この記事は「世界経済入門2019」の1記事を抜粋したもの)

ポール・グリリは、崩れ落ちる溶鉱炉の姿が今も目に焼き付いている。1982年4月のその日、家族と一緒に、オハイオ州ヤングズタウンにあった鉄鋼大手USスチールの製鉄所を見つめていた。

父親はこの製鉄所で働いていたが、既に職を失っていた。一家が見守る前で、4つの溶鉱炉がダイナマイトで破壊された。製鉄所が閉鎖されたのは、この数年前のことだった。

これは、1つの時代の終わりを象徴する出来事だった。当時、アメリカの鉄鋼、アルミ、自動車産業は、日本企業との競争に敗れて壊滅的な打撃を被っていた。USスチールも苦境に立たされたアメリカ企業の1つだった。「私の父もおじも祖父も、みんな職を失った。どのような運命が待っているのか見当がつかなかった」と、グリリは振り返る。

今、グリリはアメリカ中西部一帯の企業にアルミ塊を配達する仕事に就いている。地元の友人の中には、アルミメーカー向けに加工機器を作っているヤングズタウン・ツール&ダイという会社で働いている人たちもいる。USスチールと同様、アメリカ経済が絶好調で、アメリカの製造業が向かうところ敵なしだった時代に繁栄を謳歌した会社だ。

ただし、この会社には、ラストベルト地帯の多くの企業とは異なる点がある。単に今日まで生き延びているだけではなく、アメリカ経済の好景気を追い風に好業績を上げているのだ。2018年夏、1300万ドルを投じて新しい工場を建設して従業員を57人増やす計画も明らかにした。

ゼネラルマネジャーのデーブ・ムルジェノビッチによれば、これは「極めて好調な経済」と、トランプ政権による法人税減税、そして同政権下の「安定的な」規制環境のたまものだという。同社は全米にビジネスを拡大させ、さらにはカナダとメキシコへの輸出も考えている。

この点で、ヤングズタウン・ツール&ダイは、ドナルド・トランプ大統領が推進する経済政策「トランポノミクス」の申し子と言える。政権上層部の足並みの乱れや、ロシア疑惑、中国との貿易戦争の激化、大統領のツイッターでの過激な発言、後先考えない意思決定など、混乱続きの政権にあって、少なくとも景気回復は政権の手柄として胸を張れると、多くの政府高官は考えている。

時の政権は例外なく、自らが経済を立て直す力を過大に強調し、経済が順調なときは手柄を過大に吹聴するものだ。トランプ政権も例外でない。景気は、政権の経済政策だけでなく、金融政策、世界経済の成長率、地政学上の要因などにも左右されるが、トランプの側近たちは経済政策が成果を上げているとアピールする。2018年10月の失業率は3.7%という、1969年以降で最も低い水準となった。消費者マインドを映し出す消費者信頼感指数も、過去18年間で最も良好だ。株式相場も好調を持続している。経済成長率は、4~6月期は4.2%、7~9月期も3.5%を記録した。

「長期停滞の時代は終わった。この状態がずっと続く」と、トランプ政権のローレンス・カドロー国家経済会議委員長は豪語する。トランプも強気だ。「経済はとびっきり好調だ。たぶんアメリカの歴史で一番いい」と、ツイッターに書き込んだ。

しかし、アメリカ人の評価は分かれている。調査会社ピュー・リサーチセンターの世論調査によれば、アメリカ人の約半分が「経済が絶好調もしくは良好」と考えていることは間違いない。この割合は、最近20年近くを振り返っても有数の高さだ。

【関連記事】「投資家パックン」と読み解く、2019年世界経済の新潮流

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