飽くなき挑戦を続けるマツダ 「ロータリー」 はトヨタの次世代EVに採用
しかし、「ロータリーエンジンはマツダの財産だ」と小飼社長が語るように、マツダはチームの規模を縮小しながらも、ロータリーエンジンの開発を続けている。2015年のモーターショーでは、「RX-VISION」という名前でロータリースポーツカーの復活を示唆するようなコンセプトカーが登場した。マツダのある役員は「ロータリースポーツの開発も続けている」と打ち明ける。しかし、現在は次世代エンジンの開発が最終段階を迎えていることもあり、量産化のタイミングが計れない状況だ。
その中で、先述したように、トヨタが開発を進めるEVのレンジエクステンダーに、小型・薄型という利点を生かして、ロータリーエンジンが採用されることが決まった。ロータリーは低回転時の効率が非常に悪く、燃費の悪化につながるが、発電用エンジンなら、車速に関係なく効率がよい回転数の範囲のみで使えばよいため、大きな弱点にはならない。
トヨタ自動車が2018年1月に発表した無人運転のEV「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」。このレンジエクステンダーに、マツダのロータリーエンジンが採用された(写真:トヨタ自動車)
トヨタは2020年の東京オリンピック・パラリンピックの大会運営車両としての提供を計画する。ロータリースポーツの復活を望む往年のファンにとってはやきもきするところだが、今もなおロータリーの技術が生き続けていることだけは間違いない。
継承される「ロータリーの父」の開発哲学
「人見は、すばらしい技術者。天才や」。3月5日に行われた山本氏の「お別れの会」で、感慨深そうに語ったのは現相談役の井巻久一元社長だ。人見光夫常務は、高効率エンジン「SKYACTIV(スカイアクティブ)」シリーズを世に送り出した立役者。マツダにとっては、ロータリーエンジンに次ぐ夢のエンジンで、米フォード・モーターからの独立後、マツダの回復を支えている技術だ。
3月5日に広島市内で行われた山本健一元社長の「お別れの会」。自動車業界を中心に約1000人が参列した(記者撮影)
人見常務はエンジン開発において、常識では不可能といわれていた「14」という圧縮比を実現。そして、昨年発表した次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」では、圧縮着火技術を世界で初めて量産用で成功させた。平たくいうと、この技術では、ガソリンをディーゼルエンジンのように自己着火させることで、従来よりも少ないガソリン量で同じだけの出力を得られる。ガソリンエンジンの力強い走行を犠牲にすることなく、燃費性能の向上につなげている。
ガソリンの自己着火を可能にした新世代エンジン「SKYACTIV-X」。マツダの技術が詰まっている(記者撮影)
「飽くなき挑戦」は今も息づいているか?
人見常務は山本氏と直接仕事をした経験はないという。だが、「不可能といわれたことをかなえた」という、ロータリーエンジンの開発秘話と通じるところがあるのは単なる偶然だろうか。井巻氏は、「非常識といわれてもやりきる、そういう技術者を育てることが経営の役目。マツダにはそれを認める精神があり、連綿と受け継がれているものだ」と語る。
山本氏はマツダの技術者たちに「飽くなき挑戦」という言葉も残した。言葉そのものが語られることはなくても、マツダには逆境に負けない力を培う土壌がある。前出の小早川氏は「次世代ロータリーはこうありたい、こうあるべきだと模索されているものが出てくると思う」と期待を語る。不可能に挑戦する技術者の不断の努力を、後輩たちが受け継いでいく。その精神こそがマツダの財産だ。