「後発だった」ナイキがスニーカー市場でトップになった理由
ナイキイズムは今も健在
――アスリートを重視する姿勢は、今もナイキに根付いていると?
ナイキという企業と接していると、ナイキイズムが非常に強いと感じます。ミーティングでも「つねに変化していかなければならない」という言葉を聞きます。ナイキでは、管理職のみならず多くの社員が同じ哲学の下でビジネスをしているのです。
そうした変化を受け入れる姿勢は、商品の革新性のみならず、人事異動にも表れています。ナイキは好調なときでも、大きな人事異動を行います。『シュードッグ』の中でも、西海岸と東海岸の担当者をいきなり入れ替えるという話があります。そうした変化が人を育てることにつながる。私自身も学ぶべきところだと思いますね。
とはいえ、時に石頭だと感じることもあります(笑)。アメリカと日本の事情は違うので、日本ではこうしたほうが売れるはずだと意見を言っても、それがスポーツメーカーとしてのポリシーに反すると判断されると、反映されることは難しい。もちろん、きちんと耳を傾けてはくれますが。
大衆迎合するのではなく、あくまでアスリート目線でスポーツに適したものを作るというのがナイキのベースにあるのでしょう。こちらとしても融通が利かないなと思いつつも、頑固者をほほ笑ませるためについ躍起になってしまう。頑固者の一笑は価値がありますから(笑)。そういう魅力はありますね。
――創業者のフィル・ナイト氏に会ったことはありますか。
6年くらい前、ナイキ本社内の社員用レストランでちらっとお見掛けしたくらいで、私にとっては伝説の人物です。企業家としてというよりも、「NIKE」というブランドを創り上げたクリエーターとして、圧倒的なブランドイメージを世界に印象付けたわけですから。
当時、彼はもう会長職に就いていたのですが、その社員食堂には頻繁に行っているようで、いつも決まった席、しかも大勢の社員がいる普通の席の一つに座るという話を聞きました。情熱を冷ますことなどできない方なのでしょう。
彼は引退後もずっとナイキに大きな影響を与えているのでしょうが、ナイキとのビジネス経験や、本書『シュードック』を通して感じるかぎり、独裁者タイプではない。人に任せるところは任せきる。正社員第1号のジェフ・ジョンソンとのかかわりの中でもそれがよく表れていますよね。ナイキ独自のカルチャーを浸透させていくことで、人を育んでいったのだということがよくわかりました。