最新記事

ブランド

「後発だった」ナイキがスニーカー市場でトップになった理由

2017年11月3日(金)16時30分
東洋経済新報社出版局 ※東洋経済オンラインより転載

ランナーがシューズを、挑戦者がビジネスをつくった

――本書『シュードッグ』を読んで、新しい発見はあったでしょうか。

まず感じたのは、ナイキという企業、ブランドの根底にあるのが、「ランナーがランニングシューズをつくり、挑戦者がビジネスをつくった」という非常にシンプルな話だということ。あらためて、「ビジネスは複雑にしすぎてはいけない、目的をシンプルにして進むのがいちばんだ」と認識させられましたね。

本の中でフィル・ナイトは状況を正面から受け止めて、決して歪んだ解釈をしない。たとえば投資の仕方ひとつでも、持っているおカネをすべて投じる。つねに背水の陣を自分で敷いていくというタイプだと感じました。これはこれで疲れる生き方だな、と感じることもありましたが(笑)。

この本では、彼の心象もよく描かれています。特に家族に対する葛藤と、ビジネスに対する葛藤を感じました。その葛藤を表すように、緊張するとストレスから手首にはめたラバーバンドをパチパチと引っ張っては離す癖がついたというシーンが人間的な一面をよく表していて、印象的でした。一方で、彼は妥協しない。これでいいのだと立ち止まらないパワフルさがある。ナイーブで屈強なビジネスマンだと思いましたね。

それから、フィル・ナイトのグローバリズム。ナイキがオニツカや日商岩井など日本とゆかりが深いことは、この業界では有名な話で、この本を読む前から私も知っていました。しかし、この本を読むと、彼は学生時代、日本をはじめいろいろな国をめぐり、その国の精神や哲学を吸収していたことがわかりました。それこそが真のグローバリズムなのでしょう。外国の会社と交渉することがビジネスのグローバリズムではない。フィル・ナイトは本当の意味でのグローバルビジネスマンだと感じました。

――御社と重なる部分はありましたか。

当社もはじめは輸入卸から始めましたが、その後Hawkinsというブランドの商標権を取得し、またVANSというブランドの代理店となり、メーカーとして成長しました。そういった背景から、小売業となった今でも自社で商品を開発しています。そんな企業の生い立ちが、当社の創業者である三木正浩と重なる部分は多くありました。

三木も「皆がやっているビジネスではダメだ。独自性ある商品を作らなくては」とよく言っていました。今では年間約1500万足の自社開発商品を製造しています。不屈の精神とかモノづくりへの貪欲さなどが似ていると思いましたね。特に、フィル・ナイトが日本、台湾、中国と工場を追い求めていくときのパワー感がかなり重なりました。

弊社はもともと韓国の工場で靴を作っていましたが、その後中国にシフトし、さらにミャンマーに工場を移動してきました。15年以上も前からミャンマーに進出しましたが、まだ靴工場などがミャンマーになかった頃で、韓国の工場を説得して移転しました。今ではミャンマーにも多くの外国企業が進出していますが、15年も前の話です。「次の生産地はミャンマーだ」と創業者が言ったときは、私も非常に驚きました。

実は自社製品を開発し自社店舗で販売するというのは、粗利益は高く見えますが、開発費、広告宣伝費がかかる。他社から物を仕入れて売るのと比べ、リスクと苦労に見合うほどの利益差があるかというと疑問があります。しかし、自分たちの売るべきものを自分たちで生産したいという三木の情熱があり、そうした情熱は今でも社内に息づいています。物を作って売るからこそ、わかることがたくさんあるのです。その情熱を引き継いだ私たち一期生が、いまABCマートの経営に当たっているのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中